日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: W9-1
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ワークショップ9 紫外線・放射線誘発DNA損傷と修復、そして変異-植物特有の機能から探る-
植物におけるDNA二本鎖切断による核内倍加の誘導機構
*梅田 正明
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抄録

DNAの二本鎖切断や複製エラーなどのシグナルはATMやATRといったセンサーキナーゼにより認識され、DNA修復や細胞周期停止といったチェックポイント機構を動かす。動物では修復できないDNA異常をもつ細胞はアポトーシスにより除去され、正常な細胞のみが増殖する環境が維持されるが、我々はシロイヌナズナでDNA二本鎖切断を誘導すると、根端分裂組織の細胞が肥大化することを見出した。この際、核DNA量の増加が観察されたが、染色体数の変化は見られなかった。同様な現象は未分化な培養細胞を用いても見られたので、DNA二本鎖切断は細胞の分化状態に依らず核内倍加を誘導することが明らかになった。興味深いことに、植物特異的なサイクリン依存性キナーゼであるCDKB2がDNA二本鎖切断のストレスを受けると急速に分解されることが明らかになった。CDKB2はG2/M期特異的に発現するので、CDKB2の速やかな分解がM期をスキップする核内倍加への移行を引き起こす一つの要因ではないかと考えられる。シロイヌナズナのatm atr二重変異体にDNA二本鎖切断処理を行なったところ、核内倍加が有為に抑制されることが明らかになった。また、ATM, ATRの下流でDNA損傷応答を制御する転写因子SOG1についても調べた結果、sog1変異体では核内倍加の誘導もCDKB2のタンパク質分解も全く見られないことが明らかになった。これらの結果は、DNA二本鎖切断に応答した核内倍加の誘導はATM/ATR-SOG1経路を介することを示しており、シロイヌナズナは一種の生存戦略としてこの機構を積極的に利用していると考えられる。

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© 2010 日本放射線影響学会
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