抄録
実際の放射線治療において細胞死の詳細を明確にすることは容易でなく、臨床ではアポトーシスとその他の細胞死を十分に区別できていないことが多い。放射線治療による癌の細胞死では、アポトーシスが注目されている一方で、むしろそれ以外の分裂死、壊死等の関与の方が大きいと考えられてきたが、半減期が短いアポトーシスが過小評価されている可能性もあり、さらに細胞死の概念、分類についての議論も多い。臨床例や動物実験におけるin vivoの検討では、悪性リンパ腫のように特に高感受性の腫瘍と、リンパ球、小腸のクリプト細胞、精巣の精原細胞等の正常細胞では、小線量照射後でも早期に高率なアポトーシス誘発を認め、腫瘍、臓器の急速な縮小を伴うことが多いが、その大部分がp53依存性で、p53ノックアウトマウスでは著しく減少する。その他の大部分の腫瘍、正常組織では、通常、確認できるアポトーシスは非常に低率であり、アポトーシス関与の詳細は不明である。なお、高感受性の腫瘍、臓器でも幹細胞は相対的にやや抵抗性であることが示唆されている。ヌードマウスに移植したヒト由来腫瘍の検討でも、比較的未熟で放射線感受性の上衣芽腫や原始神経外胚葉性腫瘍では、低LETのX線、高LETの炭素イオン線のいずれでもp53依存性アポトーシスが高率に誘発される。一方、p53変異型で放射線抵抗性の膠芽腫では、放射線の種類にかかわらずアポトーシスは低率であるが、炭素イオン線ではp53非依存性アポトーシスの相対的な増加が示唆され、RBEが比較的大きいとされている。ただし、cDNAアレイ解析等ではp53、Caspase、Fas、TRAIL等に有意な変化を認めず、むしろアポトーシス抑制に関与する可能性のあるNF-kBやIAP等の発現が示唆され、さらに実際の増殖遅延から評価したRBEはアポトーシスから評価したRBEに比してそれ程大きくないことも推定されている。