日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: S2-1
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シンポジウム2. 放射線健康リスク制御に貢献する次世代バイオドジメトリー
細胞遺伝学的線量評価の現状と今後の展望
*吉田 光明
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抄録

放射線被ばく事故における被災者の被ばく放射線量を推定する事は、急性障害や晩発性障害の程度を予測し、治療や障害予防に役立てる上で極めて重要とされている。線量評価は物理学的方法と生物学的方法の2つがあるが、生物学的方法には被ばく者の臨床症状や血球数を算定する手法、末梢血リンパ球における染色体異常解析する手法が有る。生物学的な線量評価法の中でも特に染色体異常とりわけ二動原体染色体(dic : dicentric chromosome)の出現頻度を指標とした線量評価法は”Gold Standard”と呼ばれ、dicの頻度が放射線の線量と相関関係を示すことから、現在、最も信頼される手法とされている。染色体線量評価法は解析の指標とする染色体異常(二動原体染色体、染色体転座、環状染色体)によって主に3種類の手法が有る。中でも二動原体染色体を持つ細胞は、被ばく後、時間の経過と共に減少する事から不安定型染色体異常と呼ばれ、一方、染色体転座を持つ細胞は被ばく後、時間が経過しても長期間体内に残り続けることから安定型異常と呼ばれている。これらの異常の持つ性質を基に、dicは主として急性外部被ばく(全身被ばく)の線量評価に、また、染色体転座は過去の被ばく事例あるいは長期間にわたる慢性被ばくの場合の線量推定に用いられている。第3の方法はPCC (Premature Chromosome Condensation:未成熟染色体凝縮)-ring法である。一般に、細胞が高線量の放射線を被ばくすると、細胞周期がG2期で停止したり、アポトーシスが誘導され細胞が死滅する。このようなケースでは、細胞周期が染色体を形成するM期まで進行しないため染色体異常を観察する事が出来ない。 PCC-ring法は化学物質を用いて間期核DNAを強制的に凝縮させ、染色体異常とくに比較的容易に観察できる環状染色体を対象として線量評価を行う方法である。被ばく事故の状況や被ばく者の臨床症状を的確に判断しながら、どの手法を用いて線量評価を行うかを考え、選択しなければならない。また、最近、動原体に特異的なDNAやPNAプローブを用いたFISH法が応用されるようになり、より正確にdicを検出するという手法が試みられている。これらの手法も合わせて紹介する。

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© 2011 日本放射線影響学会
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