抄録
Transforming growth factor beta 1 activated kinase 1 (TAK1) は、NF-kappa B, p38 MAPK, JNKなどのリン酸化に関与し,種々のストレスに対して細胞保護的な役割をなすことが知られている.しかしながら,放射線照射下におけるTAK1の役割については不明な点が多い.そこで我々は,TAK1を安定的に発現抑制したHeLa細胞株を用いて,放射線感受性および遺伝子発現変化について検討を行った.細胞死はコロニー形成法により検討を行った.アポトーシスをカスパーゼ3の切断とSubG1期の細胞の割合を指標として定量した.細胞周期の変化はフローサイトメトリーにて検討した.また遺伝子発現変化をGeneChipを用いたマイクロアレイにて解析した.TAK1の安定的ノックダウンは,放射線によるコロニー形成能の低下とカスパーゼ3の切断を促進し,SubG1期の細胞の割合も増加させた.またTAK1ノックダウンにより,放射線により誘発される細胞周期の停止が部分的に抑制されたことから,放射線感受性増加の一因としてTAK1ノックダウンによるチェックポイント機構の抑制が考えられた.一方でTAK1の下流分子とされるNF-kappa B, p38 MAPK, ERKリン酸化の誘導に関しては,TAK1ノックダウンによる抑制は見られず,TAK1ノックダウンによる放射線感受性の増加は他の標的分子が役割を担っていると考えられた.GeneChipによる網羅的遺伝子解析手法により,TAK1ノックダウン細胞とコントロール細胞において,放射線照射による細胞周期関連遺伝子の発現変化に差が見られた.バイオインフォマティクスツールを用いてネットワーク解析を試みたところ,CDKN1A (p21) を中心とした遺伝子ネットワークがコントロール細胞で同定された一方,TAK1ノックダウン細胞ではネットワークが断片的であった.実際にコントロール細胞において,p21の発現をsiRNAにより抑制したところ,放射線による細胞周期の停止を抑制し,SubG1期の細胞の割合を増加させた.以上の結果より,TAK1はNF-kappa B, p 38 MAPK, ERKのリン酸化状態にかかわらず,p21の転写を介して,放射線誘発細胞死に対して防御的に働いているものと推測される.