抄録
目的:個体レベルでの放射線による遺伝影響や遺伝的不安定性を測定するモデルマウスの作製をめざしてふたつの実験系を試みている。細胞内在性遺伝子の変異に伴って細胞が生きたまま蛍光を発する仕組みを作り、ES細胞での検証を行った後にマウスを作製することをくり返している。方法:Gene targeting法を用いて蛍光タンパク質遺伝子を特定の遺伝子座に持ち込む手法を2種類行った。(1)内在性HPRT遺伝子のエクソン5-9部分を重複させ、その直後にin frameでGFPを結合した組換えES細胞を作製し(HPRT-dupGFP)、復帰変異に伴いHPRT-GFP融合蛋白質の発現により細胞が光る系とした。(2)tetracyclin operator をプロモーター中に持つCMV-tetO-GFPユニットを導入して恒常的にGFPが発現する細胞を作った。この細胞のHPRT遺伝子の第3イントロン中にtet-repressor 発現ユニット挿入して、tet repressor(TetR)の恒常的発現によりGFP発現が完全に抑えられるES細胞を作製した(HP-TetR-RT細胞)。この細胞では、tet R発現ユニットを含むHPRT遺伝子座にどのようなサイズの失活性突然変異が生じても細胞が光る。結果:(1)ノックインシステムの改良が必要であったが、個体レベルで全身の細胞の変異がin situ で測定できるマウスが誕生した。現在、各種臓器細胞における突然変異率を測定している。(2)HP-TetR-RTとtetO-GFP発現の複合システムは、マウス個体レベルではうまく機能しない。組織ごとにtransgeneの発現が異なるために非変異細胞でもGFP発現の漏れが起こるという問題に直面している。