抄録
【目的】胎児期被ばくによる小児白血病の増加が報告されているが、実際には環境因子や遺伝的因子あるいは放射線とこれらの因子との複合影響についても検討する必要がある。MLH1遺伝子は、DNAミスマッチ修復遺伝子の一つで、そのヘテロ欠損は家族性非腺腫性大腸がんを、ホモ欠損は幼児期にTまたはB細胞白血病を発症することが報告されている。本研究では、遺伝的に胸腺リンパ腫になりやすいMlh1欠損マウスを用いて、胸腺リンパ腫と脾臓リンパ腫の発生および原因遺伝子であるIkarosとp53の変異のスペクトラムを解析することで、胎児期被ばくの特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法・結果】Mlh1欠損マウスの非照射群および胎生17日にX線2Gyを照射したマウスから発生した胸腺リンパ腫と脾臓リンパ腫を解析した。これらのリンパ腫の表面マーカーの解析から、脾臓リンパ腫はT系列とB系列の二つのグループに分類された。リンパ腫の原因遺伝子Ikarosとp53の変異解析から、胸腺リンパ腫ではIkaros、脾臓リンパ腫ではp53がフレームシフト変異していた。照射群では、これらの遺伝子の点突然変異の頻度が増加した。興味深いことに、胎児期照射で誘発したB系列の脾臓リンパ腫では、非照射群に比べて潜伏期間の短縮が認められたが、T系列の脾臓リンパ腫や胸腺リンパ腫では認められなかった。すなわち、Mlh1欠損マウスの胎児期被ばくは、B系列脾臓リンパ腫の発生を促進するが、胸腺リンパ腫やT系列の脾臓リンパ腫には影響しないことが明らかになった。以上の結果は、ミスマッチ修復遺伝子欠損の体質の場合には、胎児期被ばくによる影響に注意が必要があることを示唆している。