日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: OE-1-3
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E: 放射線治療・修飾
小胞体ストレスがDNA損傷修復機構に及ぼす影響とそれを利用した放射線増感の可能性の検討
*女池 俊介山盛 徹安井 博宣稲波 修
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抄録
【目的】小胞体ストレス応答は、細胞内ストレスに対する適応応答であり、生体の恒常性を維持するうえで重要な役割を担っている。腫瘍細胞において小胞体ストレスは、低酸素や低グルコースなどの環境における細胞生存に関与する一方で、過度のストレスは細胞死を誘導することが報告されている。このため、小胞体ストレス応答を標的とした治療は新たな腫瘍の治療戦略として期待できると考えられるが、まだ十分な検討はされてきていない。そこで、本研究において我々は小胞体ストレスがDNA損傷修復機構に及ぼす影響という点に着目し、小胞体ストレスによるDNA損傷修復への影響の評価及び放射線との併用による増感効果の可能性について検討を行った。
【方法】小胞体ストレスの誘導には糖鎖修飾阻害剤であるtunicamycin(TM)及び小胞体Ca2+-ATPase (SERCA)阻害剤であるthapsigargin(TG)を用いた。細胞はヒト肺がん由来A549細胞を用いた。タンパク質発現の検討はウエスタンブロット法を用いて、mRNA発現の検討はRT-PCR法を用いて行った。また、細胞増殖死の評価はコロニー形成法により行った。
【結果】TM処理によりDNA相同組換え修復に関わるタンパク質であるRad51発現の時間依存的な抑制が観察された。そこで、Rad51のmRNAについて検討したところ、TM処理によるmRNAレベルの変化は観察されなかった。プロテアソーム阻害剤であるMG132とTMまたはTGとの併用処置を行ったところ、小胞体ストレス誘導剤によるRad51の発現抑制が解除された。さらに、TMを前処理した細胞では、放射線誘導細胞増殖死の増強が観察された。以上の結果から、小胞体ストレスが、ユビキチン‐プロテアソーム系を介したRad51の分解を誘導し、DNA修復能を阻害することで放射線増感作用を引き起こした可能性が示唆された。
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© 2011 日本放射線影響学会
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