抄録
【目的】5-フルオロウラシル(5FU)は放射線との併用で作用が増強されることが知られ,その機構は代謝拮抗作用に基づくとされている。一方,電子軌道計算の結果から5-FUは電子親和性が高いことが示され,低酸素細胞に対して酸素類似的作用による増感効果が期待される。今回,異なるp53ステータスのヒト肺癌細胞に対し5FUの低酸素放射線致死増感効果があるか否か,またその増感効果がDNA二本鎖切断生成の増加と関連するか否か知ることを目的とした.
【方法】ヒト肺癌由来H1299細胞(p53欠失型)にp53野生型又は突然変異型遺伝子発現ベクターを挿入した2種類の細胞株(野生型H1299wtp53,突然変異型H1299mtp53/248,大西武雄教授(奈良医大)より供与)を用いた.対数増殖期の細胞を5FU(0.1 mM)含有培地に分散し,低酸素あるいは常酸素下にてX線(150 kV)照射後,コロニーアッセイを行い,生存率曲線をもとに10 %生存線量から増感比(ER)を求めた.また,X線照射30分後に細胞核内に発現したDNA損傷修復酵素γH2AXの蛍光免疫染色を行った.フローサイトメトリーを用い細胞当たりの蛍光量を計測しγH2AXの発現量を求めた.
【結果】常酸素下のX線照射では5FUの存在による生存率の変化は認められなかった。低酸素下では5FUによるX線致死増強効果がみられ,H1299wtp53細胞のERは1.26,H1299mtp53/248細胞ではER=1.14が得られた.また,低酸素細胞において線量の増加につれてγH2AX focus由来の蛍光量は増加した.低酸素,5FU存在下ではcontrolに比べて同一線量での蛍光量が増加した.
【結語】5FU存在下ではp53野生型および突然変異型の両細胞とも低酸素下においてX線致死増感作用が観察された.5FUによる低酸素細胞X線致死増感作用は,DSB生成の増加が原因の一つと考えられる.