日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: PA-5
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A DNA損傷・修復
重粒子線によって発生する細胞内DNA損傷生成収率の解析
*島崎ー徳山 由佳井上 侑子古澤 佳也井出 博寺東 宏明
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抄録
電離放射線によって、DNAには様々な種類の酸化損傷が発生するが、DNA上のその存在様態も様々である。電離放射線による傷害はそのトラック周辺に局在することから、DNA上に発生する損傷もまた局在する。この局所的に集中して発生する損傷を、クラスターDNA損傷と呼び、放射線特異的損傷として認識されている。一方、孤立して発生する様々な酸化損傷は、電離放射線以外の酸化ストレスによっても生じるが、その収率はクラスターDNA損傷の数十倍に達することから、その量的な効果を無視することはできない。すなわち、放射線効果の分子機構の解明には、クラスターDNA損傷と孤立損傷、両方の解析が必須である。そこで、本研究では重粒子線によって照射された細胞内に生じる両損傷の解析を行い、放射線効果との関連性を検討した。
実験は、まずChinese Hamster Ovary (CHO) 細胞AA8株を、ガンマ線(Gamma)、炭素イオン線(C)、硅素イオン線(Si)、アルゴンイオン線(Ar)にて照射した。それぞれの線エネルギー付与(LET)は0.2 keV/µm、13 keV/µm、55 keV/µm、90 keV/µmである。孤立損傷の解析は、照射細胞から染色体DNAをNaI法で抽出、精製し、アルデヒド反応性プローブで修飾して化学発光法により定量する方法で行った。酸化ピリミジン損傷ならびに酸化プリン損傷は、それぞれ大腸菌endonuclease (Endo)III、ヒトOGG1による酵素処理にて検出した。一方、クラスターDNA損傷の生成収率は、Endo IIIおよび大腸菌Fpg処理を併用したスタティックフィールド電気泳動にて解析した。その結果、照射細胞内における孤立損傷の総生成収率は、[Gamma > C > Si > Ar]という傾向を示し、LETの増大に対して、孤立損傷の総生成数は減少することがわかった。他方、細胞内クラスターDNA損傷の総生成収率も[Gamma > C > Si > Ar]という、同様の傾向を示した。これらの結果は、我々が以前報告した試験管内実験における結果と一致している。また同時に行ったコロニー計数法による細胞生存率から、LET依存的な生存率低下が認められた。以上の結果から、重粒子線におけるLET依存的な生物効果の増大について、DNA損傷の量的効果だけでなく、クラスターDNA損傷の質的な効果を検討することの重要性が示唆された。
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© 2011 日本放射線影響学会
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