抄録
電離放射線によって生じたDNA損傷は、完全に修復されなければ突然変異や発癌の原因になるといわれている。特に、高LET放射線の飛跡周辺や二次電子の飛跡末端で生じやすいとされている、いわゆるクラスター損傷(複数の損傷がDNA上の狭い領域に集中的に生じている)は修復が困難とされているが、その実体はほとんど明らかになっていない。そこで我々は、このような仮説的な損傷を実験的に解明するために、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)現象に着目した損傷位置ばらつき評価法の開発を行っている。APに蛍光プローブ(AlexaFluor350、及びAlexaFluor488型)標識したDNAオリゴマーを用いたモデル実験において、AP損傷間距離に応じたFRET効率が得られることをすでに確認している(前年会PA-7)。次に、APがランダムに生じると予想される熱処理(70℃、pH5)DNA(pUC19, 2686 bp)を用いて、FRET実験データ点とランダムな場合(指数分布)の理論曲線を比較した。その結果、両者は一致することが分かった。熱処理DNAにはAPがランダムに存在することを実験的に初めて確認できたといえる。本FRET法の放射線照射DNAへの適用についても報告する。