抄録
DNAの塩基損傷は恒常的に発生しており、酸化、アルキル化、脱アミノ化など、原因は様々である。それらの一つである酸化損傷は、放射線などの外的な要因や、ミトコンドリアにおける代謝産物などの内的な要因で発生する活性酸素種(ROS)により引き起こされ、DNAの複製や転写の阻害、さらに突然変異を引き起こすことで癌、老化や神経疾患などに関与している。塩基除去修復(base excision repair; BER)は、この塩基損傷を修復する機構であり、BERを開始する二価性DNA glycosylaseの一つであるendonuclease _VIII_-like 1(NEIL1)は、損傷塩基を除去し、形成された脱塩基部位(apurinic/apyrimidinic site; AP site)の5’側および3’側のDNA鎖を切断し、ギャップを形成する。マウスNEIL1には、variantと考えられる特異的なmRNAの存在が報告されているが、その意義については知られていない。マウスの乳腺腫瘍において報告されたものをvariant1、大動脈、静脈において報告されたものをvariant2とした。当教室では、これまでに複数の正常臓器における両variantのmRNA発現をRT-PCR法によって確認した。本研究では、まずJcl:ICRマウスの、8週齢の雄の各臓器よりtotal RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを得る。そして、mNEIL1およびvariant1、variant1およびvariant2、variant2のみを認識する各プライマーセットを設計し、それらのプライマーを用いてリアルタイムPCR法を行う。アクチンで補正した値から、各臓器における各mRNAの発現量を定量する。また、N末端タグ融合組み換えマウスNEIL1は酵素活性を喪失することが報告されていることから、C末端タグ融合組み換え両variantタンパクの酵素活性を調べたが、活性は見られなかった。本研究では、精製したタンパクの損傷オリゴヌクレオチドに対する活性の有無を明らかにするために、tag-freeのmNEIL1、variant1、variant2各組み換えタンパクの発現系の構築を試みる。