抄録
クラスターDNA損傷は、電離放射線によってDNAへリックス二回転中に二つ以上の損傷が生じるものである。クラスターDNA損傷がどの程度、また、どのように生物影響を及ぼすのかに関しては不明な点が多い。本研究では、鎖切断と脱塩基部位や8-oxo-7,8-dihydroguanine (8-oxoG)を含むクラスターDNA損傷を用い、大腸菌に形質転換し、形質転換効率及び突然変異頻度を調べた。鎖切断が脱塩基部位からなるクラスターDNA損傷の場合、鎖切断及び脱塩基部位がそれぞれ単独であった場合に対し、形質転換効率は大幅に低下することが明らかになった。このことから、鎖切断及び脱塩基部位からなるクラスターの大部分はプロセシングによりDSBを生じていることが示唆される。また、損傷間の距離を離す(10-20bp)と、形質転換効率は損傷がない場合と同程度になることが明らかとなった。この形質転換効率の回復はPolIに依存していた。一方、鎖切断が8-oxoGからなるクラスターDNA損傷の場合、鎖切断及び脱塩基部位がそれぞれ単独であった場合に対し、形質転換効率は低下せず突然変異頻度は増加することが明らかになった。突然変異頻度は損傷間の距離が大きくなると低下する傾向にあった。また、この損傷間距離依存性はPolIに依存していた。これらの結果は、クラスターを構成する損傷の修復にPolIによる修復合成が深く関連する可能性を示唆している。