抄録
中性子線照射マウスにおけるAprt欠損突然変異の解析
大賀千鈴、江刺達也、山内一巳、柿沼志津子、島田義也、立花 章
マウスを用いた研究により、放射線による腫瘍形成頻度が照射時年齢によって異なることが報告されている。腫瘍形成過程には遺伝子突然変異が関与していると考えられるため、腫瘍形成の照射時年齢依存性が生じる原因の1つとして、放射線誘発突然変異生成に年齢依存的な特徴があるのではないかと推測される。また、LETが異なると突然変異に分子レベルで質的な違いが生じることが考えられる。この点を明らかにするために、週齢の異なるマウスに中性子線を照射し、体細胞突然変異頻度の解析とヘテロ接合性の消失(LOH)を指標としたDNA解析を行った。アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)をコードするAprt遺伝子を突然変異検出のマーカーとし、一方のAprt対立遺伝子を欠損させたC3B6F1 Aprt+/-マウスを用いた。1週齢と7週齢のマウスに、0.25 Gy 1回、0.25 Gy 4回、1 Gy 1回の中性子線照射を行い、脾臓リンパ球での突然変異体頻度を解析した。その結果、照射時週齢が若いほど、また線量が高いほどAprt突然変異感受性が高くなることが示唆された。さらにAprt遺伝子座でのLOHを検討したところ、1週齢マウスでは非照射群よりも照射群の方が高いLOH頻度を示した。一方、7週齢マウスでは非照射群の方が照射群よりも高いLOH頻度を示した。また、Aprt遺伝子でのLOHが確認された変異体について、LOHの範囲をより詳細に検討するために、Aprt遺伝子と同じマウス第8番染色体上にあるマイクロサテライトマーカーD8Mit271を用いて解析を行ったところ、1週齢マウスでは照射群の方が非照射群よりも高いLOH頻度を示した。従って、中性子線照射群の方が非照射群よりも広範囲にわたるLOHを生じている可能性が示唆される。