抄録
[背景]頭頸部癌に対する放射線治療の主な有害作用に口腔粘膜炎と唾液腺機能障害がある。口腔粘膜炎並びに唾液腺機能障害を防護する有用な薬が現在ないため、放射線治療の用量を制限する主な有害作用となっている。[目的]放射線照射で生じる口腔粘膜炎に対するD-メチオニンの防護効果を明らかにすることを目的とした。[方法] 9週齢C3H系雌性マウスにD-あるいはL-メチオニンを経口投与し、15分後に無麻酔下でX線8Gy(1.9Gy/min)を5日間照射、あるいはX線22.5Gyを単回照射した。舌を摘出し1% Toluidine Blue液により潰瘍部位を染色した。実体顕微鏡下で舌全体像を撮影し潰瘍の面積を画像解析ソフトImage Jにより測定した。また摘出した舌をホルマリン固定後、HE染色標本を作製し顕微鏡下で潰瘍を組織学的に評価した。 [結果] D-メチオニン投与群においてのみ有意に舌粘膜障害(潰瘍)を抑制した(立体配置特異的作用)。マウスにD-メチオニン(10, 30, 100, 150 mg/kg)を経口投与し、15分後に頭頸部にX線8Gyを5日間照射した(Total 40Gy)。その結果100, 150 mg/kg投与群で有意に舌粘膜障害(潰瘍)を抑制した(用量依存的作用)。X線8Gyを5日間照射した群において舌粘膜障害(潰瘍)を抑制したが、X線22.5Gyを単回照射した群では抑制効果は観察されなかった(放射線照射用量による影響)。[考察] D-メチオニンはL-メチオニンに比べて生物学的半減期が長くクリアランス値が小さいことが知られている。このような薬物動態パラメータの違いにより放射線照射で生じる口腔粘膜炎に対するメチオニンの防護効果が立体配置特異的に現れると考える。