抄録
【目的】
アスコルビン酸(AsA)によるがん治療は、副作用の少ない治療法として期待され、単独もしくは化学療法と併用して用いられるが、放射線との併用療法についてはほとんど検討されていない。このAsAの抗がん作用機序については、H 2O2を除去する細胞内カタラーゼが少ない腫瘍細胞ほどAsAに対して感受性を示すことから、H 2O2由来の活性酸素種(ROS)の発生が関与すると考えられている。一方、X線照射による細胞死の多くは、細胞内に生成した活性酸素種に依存することが知られている。そこで本研究では、ヒト前骨髄性由来白血病細胞株であるHL60を用いて、AsAと放射線の併用による細胞障害作用機序について、ROS発生の観点から検討を行った。
【方法】
HL60は、10%牛胎児血清含有RPMI1640で培養し、0.01 mM~2.5 mMのAsAを添加し24時間後の生細胞数を計数した。次に、HL60にカタラーゼを1300 U/mLの濃度で添加し、6時間培養後に1 mM、2.5 mMのAsA添加もしくはX線2 Gy照射、及びその併用で処理し、24時間後に生細胞数を計数した。細胞内ROSの動態は、ROS感受性色素CM-H 2DCFDAを用い、フローサイトメーターで測定した。
【結果と考察】
AsA単独処理では、1 mM程度から濃度依存性の細胞致死効果が観察された。さらに、AsA投与後にX線照射を行うと、X線との相加的な細胞致死効果が示された。このとき、AsA単独処理にカタラーゼを添加すると、AsAの細胞致死作用は消失し、さらにAsAとX線併用ではX線単独と同程度に低下した。細胞内のROSの生成は、X線照射では12時間後にピークに達したが、AsA添加では減少した。カタラーゼの影響、ROSの動態の違いから、H 2O2によるヒドロキシラジカルの作用経路がAsAとX線では異なることが示唆された。