抄録
我々はcisplatinを結合させたDNAに放射線を与えた時の、塩基レベルでの切断位置に特異性があることを発見した。ガン治療において、cisplatinを与えた患者に放射線を当てると、相乗効果により抗ガン効果が高まることが知られている。しかしながら、その原因は塩基レベルで解明されていなかった。本研究では、cisplatinを結合させたDNAにX線を照射し、サンガー法を用いた切断位置特定法により、DNAの塩基レベルでの切断位置を特定し、抗ガン効果の向上の原因を塩基レベルで解明を目指した。
DNAにX線を100Gy照射したところ、切断が確認できた。しかしこの切断には塩基特異性がみられなかった。cisplatinを結合させてX線を照射しないDNAでは、塩基レベルでの切断は起きていなかった。一方、cisplatinを結合させたDNAに100GyのX線を照射した場合、X線を照射した場合の切断位置に加え、新たな位置での切断を確認した。その切断位置は、DNAのアデニンとグアニンの位置に一致した。さらに、DNAのすべてのアデニンとグアニンの位置で切断が起きているわけではなかった。また、cisplatinを結合させたDNAへのX線照射量を150Gyに増加させても、切断位置がほぼ同じであることを確認した。
これらのことから、cisplatinの存在によりX線による塩基レベルでの新たな切断が生じること、及び切断位置がcisplatinが結合している位置に特異的であることが明らかとなった。Zheng(2008)は、cisplatinの白金原子に放射線が当たった時に発生する二次電子がDNAに損傷を与えるために、DNAの損傷が増加することを示唆している。我々の結果は、白金原子で発生した二次電子がcisplatinの結合したアデニンとグアニンに作用して切断する可能性を示している。