日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: W1-3
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ワークショップ1. 放射線影響に及ぼすビタミンCの効果に関するワークショップ
ビタミンCによるX線誘発微小核抑制機構
*岡田 卓也菓子野 元郎田野 恵三渡邉 正己
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抄録
【背景】X線により誘発される微小核形成の多くは、DNA二重鎖切断生成に起因すると一般的に考えられている。しかしながら、DNA二重鎖切断を持つ細胞はチェックポイント機構により細胞周期進行が阻害されるので、分裂期経過を必要とする微小核形成につながりにくい。この明らかに矛盾する2つの事象を調和させるために、G1期で生じたDNA二重鎖切断が微小核形成につながるのか否かについて、アスコルビン酸(ビタミンC)を用いて調べた。
【方法】細胞は、ヒト正常胎児線維芽様細胞(HE17)を用いた。細胞をコンフルエント状態で1週間維持し、細胞周期をG1期に同調しX線照射した。照射後のDNA二重鎖切断を可視化するために、所定照射時間(15分 ~ 24時間)後に細胞をホルマリン固定し、蛍光免疫染色法により53BP1を染色した。また、微小核形成については、照射24時間後に細胞固定し、DAPI染色により可視化した。さらに、照射24時間後の微小核内の状態を蛍光免疫染色法及びセントロメアFISH法により観察した。本研究では、放射線防護効果の異なる2種類のラジカル消去剤を使用することにより、DNA二重鎖切断と微小核形成の関連性を調べた。ジメチルスルフォキシド(DMSO)は、照射由来の活性ラジカルを捕捉し細胞死を抑制することから、DNA二重鎖切断を抑制するラジカル消去剤として使用した。一方のビタミンCは、放射線による致死作用を抑制しないことから、DNA二重鎖切断を抑制しないラジカル消去剤として使用した。
【結果】はじめに、ラジカル消去剤による放射線防護効果をコロニー形成法で調べた。その結果、2%(256 mM)DMSO照射前処理により放射線防護効果が観察された。一方、5 mMビタミンC処理においては、未処理時の生存率と変わらなかった。さらに、53BP1によるDNA二重鎖切断の評価において、DMSO照射前処理は53BP1フォーカス数を有意に抑制したが、ビタミンC処理では抑制しないことが明らかとなった。これらの結果より、DMSOは照射時の活性ラジカルを抑制することにより、DNA二重鎖切断生成を抑制し細胞致死効果を軽減させるものの、ビタミンCにはそのような効果が見られないことが分かった。次に、ラジカル消去剤によるX線(0.5 ~2 Gy)誘発微小核形成の抑制効果を調べた。その結果、DMSO照射前処理では微小核形成を抑制せず、ビタミンC処理は微小核形成を有意に抑制した。もしも、X線誘発微小核形成の多くがDNA二重鎖切断生成に起因するならば、DMSO処理により微小核形成も抑制されるはずである。実際は、DNA二重鎖切断を抑制しないビタミンCが微小核形成を抑制した。また、照射により生成される微小核内にセントロメアが観察されたことから、細胞分裂機構の異常が照射後の微小核生成に関与することが示唆される。
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© 2011 日本放射線影響学会
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