抄録
ダブルミキシングストップトフロー分光法を用いてビタミンCやユビキノール(還元型CoQ10)による天然ビタミンEの再生反応の速度論的研究を行った。ユビキノールに対して大きな重水素化効果が観測された。α-トコフェロール(ビタミンEの一種)の再生反応においてユビキノールを重水素化すると活性化エネルギーが6.1kJ/mol増加し、二次反応速度が1/18.3に減少した。この結果から、ユビキノールによるビタミンEの再生反応においてトンネル効果が重要な役割を果たしていることがわかる。それに対して、ビタミンCによるα-トコフェロールの再生反応ではそのような大きな重水素化効果が観測されなかったので、我々の実験条件下ではトンネル効果は重要な役割を果たしていない。しかし、α-トコフェロールではなく活性部位を保護したビタミンEのモデルを用いると、ビタミンCでも大きなトンネル効果が観測された。講演ではトンネル効果が重要な因子になる条件を議論する。ビタミンEはトンネル効果を利用して細胞膜における脂質過酸化を抑制しているかもしれない。微視的な量子論的効果であるトンネル効果が巨視的な生体機能に関与しているとすれば大変興味深い。これは一見我々の直感には反するが、生体は量子力学をよく知っていて、トンネル効果を上手に使って効果的に生体膜を保護しているのかもしれない。