抄録
【背景と目的】現在、放医研では体表から病巣までの深さに応じて、290、350、及び400 MeV/uの加速エネルギーの違うビームを使い分けて重粒子線治療が行なわれている。しかし加速エネルギー違いによる生物学的効果の違いはよくわかっていない。加速エネルギーの違いによって生じる効果の違いを評価するために、本実験では異なる2種のエネルギーで加速した炭素イオン線の生物効果を細胞致死の点から評価した。
【材料と方法】まず物理線量測定を行い、次に生物実験を行なった。細胞は粒子線効果比較に多く用いられているヒト唾液腺腫瘍由来HSG細胞を用いた。炭素イオン線は290 MeV/uおよび400 MeV/uに加速されたビームを用い、6 cmに拡大したブラッグピーク(SOBP)の中心および中心から±25 mm、+28mmの計4点で照射を行った。生物学的効果比(RBE)算出の際の参照放射線として、X線を用いた(200 kVp, 20 mA)。細胞生存率はコロニー形成法を用いて求め、Linear-Quadratic modeを用いてフィッティングを行い、D10を求めRBEを算出した。
【結果と考察】290 MeV/uの治療ビームは、SOBP内で深さに依存して物理線量分布の減少が急激であり、RBEは急激に上昇した。一方400 MeV/uの治療ビームでは物理線量分布の減少は緩やかであり、RBEの上昇も緩やかであった。結果的に、290 MeV/uも400 MeV/uの炭素線も、細胞致死を指標としたSOBP内の生物線量分布の平坦度は良好であり、生物学的効果線量も大きな違いはなかった。
【結論】
加速エネルギーの違いによる生物効果の違いはみられなかったので、加速エネルギーの異なる炭素イオン線でも同じ治療計画が利用できることが示唆された。