抄録
メダカは放射線影響研究において、古くから詳細に研究が行われてきた動物種であり、これまでに多くの知見が蓄積している。また、近年メダカを取り巻く研究基盤は急速に発展しており、ゲノム解読、トランスジェニック作出、TILLING法によるノックアウトなどの技術が利用可能である。胸腺は放射線照射によって最も影響の出やすい臓器の一つであるが、これはメダカでも共通である。近年、徳島大学高浜研究室により開発された胸腺で特異的にGFPを発現するメダカ系統cab-Tg(rag1-egfp)は、蛍光顕微鏡下において、生きたまま胸腺の形、大きさを観察することが可能である(Li J. et al., Journal of Immunology, 2007)。このメダカに放射線を照射後、蛍光顕微鏡下で観察を継時的に行い、画像解析から放射線障害の定量化を行った。cab-Tg(rag1-egfp)にX線10Gyを照射すると、次の日には胸腺の萎縮が確認され、3日目に体積が最小になった後、11日目には胸腺の大きさはほぼ回復した。X線30Gy照射では、2日目に胸腺が一度ほぼ消失し、22日後には再び回復するのが観察された。また、X線1Gy照射では非照射群と比べ、胸腺に変化は見られなかった。ハイマック(Fe)照射(10, 5, 2Gy)でも同様の実験を行ったところ、X線照射と比べおおよそ3倍の影響が起こることが確認された。このメダカ系統は一個体中の放射線障害-回復を生きたまま殺さずに追って行く事が可能な系であり、放射線影響研究を解析していく上での優れた系になりうる。