日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: W5-6
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ワークショップ5. 生体組織に対する低線量(率)放射線影響の解明に向けて
低線量率トリチウムβ線の生体影響研究ー動物レベルを中心にー
*馬田 敏幸
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抄録

核融合反応の原料であるトリチウムは、核融合炉の事故時だけでなく正常運転時にも環境中に放出される可能性がある。その放出されたトリチウムによる被曝は低線量率被曝であることが予想されている。我々は低線量率でのトリチウムのβ線による突然変異生成に対する生体の監視機構をp53に着目して研究を行っている。8週齢のp53(+/+)およびp53(-/-)マウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gy被ばくすることになる。その結果、両マウスにおいてトリチウム水を投与したマウスの脾細胞のTCR遺伝子突然変異誘発率は、非投与マウスと比較して増加した。また、従来の報告と同様に、Tリンパ球における突然変異の自然発生レベルは、p53(-/-)マウスがp53(+/+)マウスより高い値であった。一方、γ線との比較のために、シミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)でγ線をマウスに照射し、19日目にTリンパ球の突然変異の誘発率を調べた。その結果、γ線照射によりp53(+/+)マウスでは突然変異の誘発率の増加は見られなかったが、p53(-/-)マウスでは誘発率が増加した。この結果より、Tリンパ球に生じた突然変異の増加の抑制にp53が寄与することが確認された。p53が損傷細胞の排除によって突然変異の抑制に寄与していることを確かめるために、p53(+/+)マウスとp53(+/-)マウスを照射して、12時間と24時間後の脾細胞のアポトーシス活性を調べた。その結果、p53(+/-)マウスはp53(+/+) マウスに比べてアポトーシス活性が低下していた。以上の結果から、p53(+/+)マウスではp53依存性アポトーシスを介した損傷細胞の排除により、組織修復が効果的に行われていることが明らかになった。またその頻度はβ線の方が高かったことより、低線量率での放射線照射ではトリチウムβ線のRBEは1より大きいことが推察された。

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