抄録
造血幹細胞は自己複製能と多分化能を有する.この造血システムは高い増殖能を有する再生系組織である為,造血幹細胞は放射線や化学療法剤のような生体外酸化ストレスに対して感受性が高い.膜貫通糖たんぱくであるCD34抗原発現を基に分離されるヒト造血幹細胞は,血液学実験に広く使われている.しかしながら,CD34陽性細胞は分化方向が確定した前駆細胞や分化初期の前駆細胞等様々な機能細胞からなっているヘテロな集団である.造血幹細胞の発現する表面抗原と造血との関連性は明らかになってきているが,様々な細胞からなる造血幹細胞集団とその放射線感受性との関連性は不明な点が多い.そこで我々は,造血初期関連抗原であるCD34, CD38, CD45RA, CD110及びTie-2発現に焦点をあてた.その結果,造血幹細胞の放射線感受性は未熟造血幹細胞に発現するTie-2抗原に依存する事が明らかとなった.
次に造血幹細胞の放射線感受性とHO-1やNQO1などのNrf2標的遺伝子発現との関連性を検討した.Nrf2は様々な抗酸化遺伝子発現の誘導を制御する転写因子である.その結果,造血幹細胞の放射線生存率とNQO1 mRNA初期発現との間に有意な負の相関が観察され,NQO1 mRNAレベルが低い造血幹細胞は放射線抵抗性である可能性が示された.Nrf2による抗酸化システムは造血幹細胞の放射線感受性と関連性がある事が示唆される.