抄録
【はじめに】
幹細胞は放射線発がんの標的細胞と考えられるにも関わらず、これまで放射線応答について解析されてこなかった。最近我々は、神経幹細胞を含むマウスニューロスフェア(NS)細胞を用いて、幹細胞の放射線応答や不死化過程について解析しているので紹介する。
【材料と方法】
14.5日齢のICRマウス胎児脳の線条体を培養系に移し、ニューロスフェア(NS)細胞を得た。同時に、対照として線維芽(MEF)細胞を得た。NS細胞の放射線応答をみるために、X線照射後のDNA2重鎖切断の修復動態をγ-H2AXフォーカス数と未成熟染色体凝縮(PCC)による染色体断片数で調べた。また、細胞を3日毎(3T2)、5日毎(5T2)、及び10日毎(10T2)に継代培養し、NS細胞とMEF細胞の不死化過程を解析した。
【結果と考察】
X線照射後のDNA2重鎖切断(DSB)の継時的な修復動態を調べたところ、NS細胞はMEF細胞に比べて、照射後3時間までのDSB修復が有意に速いことが、γ-H2AXフォーカス数と染色体断片数の解析からわかった。この結果は、神経系細胞と線維芽細胞の違い、あるいは幹細胞と分化細胞の違いを反映していると考えられる。コロニー形成法による感受性試験では、NS細胞(D0=1.1 Gy)がMEF細胞(D0=0.84 Gy)よりやや抵抗性であり、修復動態を支持する結果となった。一方、継代培養では、5T2、及び10T2で培養したNS細胞、並びに10T2で培養したMEF細胞が集団分裂回数(PDN)100を超えて不死化した。3T2ではどちらも老化した。染色体解析の結果、MEF細胞は40PDN時点で全て3倍体~4倍体を示したのに対し、NS細胞は54~70PDN時点で約50%の細胞が2倍体であった。このことは、NS細胞の不死化はMEF細胞とは異なる過程であることを示唆している。さらに、このことは2倍体の染色体構成を示すマウス不死化神経幹細胞が樹立できることを示しており、今後の放射線による生物影響評価実験系への応用が期待される。