抄録
放射線誘発マウス胸腺リンパ腫の解析から単離されたBcl11bは、T細胞や腸管のクリプト細胞などで発現している。最近、ヒトT細胞性急性白血病の約16%にBcl11b変異が報告された。Bcl11bKO/+マウスを用いた発がん実験から、Bcl11b片アレル欠失が前がん細胞のクローナル増殖に重要な役割を果たすことを報告した。しかし、発がん母体となる細胞が、特定の分化段階にある胸腺細胞に由来するのか、あるいは骨髄に存在する未分化細胞に由来するのかは、不明である。そこで、Lck-Cre;Bcl11bflox/+マウス(DN2分化段階以降の細胞でBcl11bKO/+となる)を作製し実験した。その結果、照射後60日の約半数にクローナル増殖する細胞が観察され、DN2分化段階以降の細胞が発がん母体細胞であることが示された。さらに、クローナル増殖細胞の特徴についても報告する。後半はγ線照射後の腸上皮再生に与える遺伝子影響について報告する。非照射では腸管上皮細胞の移動速度はBcl11bKO/+とBcl11b+/+ の間で差は認められなかったが、γ線照射後の移動抑制には違いがみられ、Bcl11b KO/+はBcl11b+/+ より抑制が弱かった。照射後、多くの細胞は増殖を停止するが、幹細胞と考えられるCBC細胞は増殖を持続し、その程度はBcl11b KO/+の方が高かった。照射によるp53の活性化はBcl11bKO/+のクリプト内細胞で低かった。以上の結果から、Bcl11b の片アリル欠損はクリプト内CBC細胞の放射線感受性を抑制し、その結果再生を促進することが示唆された。発がんとの関連性についても議論する。