抄録
ゲノムDNAは、種々の内的・外的要因によって絶えず損傷を受けている。多種多様なDNA損傷を除去し、細胞の生存とゲノムの安定性を維持するために、生物はいくつものDNA修復機構を備えている。また酸化ストレスを防御する機構も持っており(SODやcatalaseなど)、ストレスへの応答やDNA修復機構によってゲノムの安定性を保っている。これらの機構が破綻すると、細胞死の亢進、突然変異や染色体不安定化に伴う異常細胞の出現を促すことになり、癌や老化など個体全体の機能低下や異常を起こす。老化に関連した機能低下は、DNA中の損傷や突然変異の蓄積によって起こされると考えられている。DNA損傷のなかでも,活性酸素によって生じる酸化的塩基損傷は老化との関わりでとくに重要である。酸化ストレスや活性酸素と老化の関連はこれまでにも多くの研究が行われてきた。しかし,どの生体分子の酸化が老化に関連するのか,どの分子が修復されれば老化の制御につながるのかはまだよく解明されていない。線虫C. elegansは、約千個の細胞からなる多細胞生物で、寿命は平均約25日であり,老化や発生の研究分野で優れたモデル生物として広く利用されている。本研究では,C. elagansを用い、DNA修復をはじめとするゲノム安定性維持に必要な遺伝子の探索とそれらの欠損変異の個体寿命への影響の解析、放射線や過酸化水素などの酸化ストレスへの応答。本研究室で最近同定した塩基除去修復酵素Ung-1(uracil-DNA glycosylase)とNth(endonuclease III)の遺伝子の欠損変異株の性質, AP endonuclease(Exo-3, Apn-1)などの酵素の性質,遺伝子機能と老化•発生や細胞死制御との関連についての結果をあわせて報告する。