日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: W9-4
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ワークショップ9. 線虫C. elegansを用いた個体レベル放射線生物研究の最前線
Ins/IGF-1 変異体における酸素ラジカル誘発性ホルミシスによる寿命延長機構
*簗瀬 澄乃正山 哲嗣須田 斎石井 直明
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抄録
 線虫Caenorhabditis elegans (C. elegans)において、高濃度酸素への短時間暴露の反復によって寿命が延長するというホルミシス効果が認められる。特に、C. elegansにおける老化や酸化ストレス抵抗性を決定する細胞内Ins/IGF-1信号伝達経路の構成因子に変異をもつ株(Ins/IGF-1変異体)の一つage-1変異体では顕著である。我々はこれまでに、Ins/IGF-1信号伝達経路の活性が、このホルミシスによる寿命延長効果に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。Ins/IGF-1信号伝達経路の下流では、ヒトのフォークヘッド型転写因子に相同なDAF-16が作用しており、その標的として抗酸化系酵素やミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる蛋白などをコードする遺伝子が明らかになっている。従って、C. elegansにおけるホルミシスによる寿命延長効果には、これらDAF-16標的遺伝子の転写活性化が寄与している可能性が示唆された。
そこで我々は、高濃度酸素暴露によるホルミシス効果が認められるage-1変異体において、SODやカタラーゼなどの抗酸化酵素活性が上昇していることを半定量的RT-PCR法によって確認した。また、そのミトコンドリアにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の変化を測定し、短時間の酸素暴露に依存してその産生量が低下すること、さらに抗酸化酵素の作用を除外したサブミトコンドリア粒子(SMP)においてもその産生量が減少することをこれまでに発表した。これらの酸素暴露に依存した抗酸化系の活性化およびスーパーオキサイドラジカル産生量の減少は、DAF-16発現を欠くヌル変異体においては認められなかった。これらの結果から、ホルミシス効果を生じるためにはDAF-16標的遺伝子である抗酸化系酵素が活性化され、エネルギー代謝系が抑制される必要があることが推察された。また、これまでに観察された酸素暴露によるage-1変異体のスーパーオキサイドラジカル産生量の減少がミトコンドリア呼吸鎖の活性低下に依存しているかどうか、その酸素消費量を測定することによって解析を試みた結果、総括して酸素ラジカル誘発性ホルミシスはIns/IGF-1信号伝達経路を介して生体の抗酸化系を活性化するとともに、ミトコンドリア呼吸鎖の活性を抑制することにより細胞内活性酸素量を減少させ、寿命延長効果をもたらしているものと思われる。
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© 2011 日本放射線影響学会
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