抄録
◆ APサイト(脱塩基部位)は塩基除去修復の過程で生じるだけでなく、自然に起こる脱プリン反応によっても断続的に生じる代表的なDNA損傷のひとつである。APサイトはDNA複製の障害、転写の障害となり、細胞の生存に悪影響を及ぼす。APエンドヌクレアーゼはそのようなAPサイトを切断し塩基除去修復において主要な役割を果たす。塩基除去修復はDNAが盛んに複製される発生段階において重要な働きをしていると推測できる。◆カタユウレイボヤはヒトと同じ脊索動物門に属するモデル生物であり、細胞系譜や遺伝子発現調節ネットワークの知見が蓄積している。我々はこのカタユウレイボヤを材料とし、塩基除去修復で主要な役割を果たすAPエンドヌクレアーゼについて機能解析をしている。◆カタユウレイボヤにおけるヒトAPE1/Ref-1ホモログ(以下CiAPE)をサブクローニングし、GST融合タンパク質発現系を確立した。これを用いてGST融合タンパク質を回収し、THF‐APサイトに対してAPエンドヌクレアーゼ活性を持つことを確認した。次にxth nfo欠損株大腸菌にベクターを導入し、DNAアルキル化薬剤であるmethyl methane sulfateへの抵抗性が回復すること、さらにアミノ酸点突然変異を加えたCiAPEベクターを導入した大腸菌は抵抗性を回復しないことが観察できた。これらのことよりカタユウレイボヤにおいてもヒトAPE1/Ref-1ホモログが保存されていることが示唆される。◆今回ゲノム上でCiAPEの上流約3kbpの配列をGFP発現ベクターにサブクローニングした後、受精卵に導入した。幼生に至るまでの過程でGFPの発現について観察している。発生環境の変化やRNAiの与える影響について研究中である。