抄録
【目的】 太陽紫外線が誘発する最多DNA損傷はピリミジン2量体である。その中には、シクロブタン型2量体 (CPD)、(6-4)型2量体 (6-4PP)、および6-4PPの光異性体であるDewar型2量体 (DewarPP)が含まれる。UV-BとUV-Aからなる太陽紫外線は、UV-B単独に比べて2量体の形成頻度が異なり、その詳細な解析は太陽光発がんの機序を探る上で必須であるにもかかわらず未だに充分ではない。そこで、本実験では太陽紫外線が誘発する2量体型損傷を詳細に検討した。
【方法】 太陽光照射は、2010年6月から10月の晴天時 (10時から16時)に奈良医大屋上で行った。2 ml のDNA水溶液 (350 µg/ml) を35 mmディッシュに入れ、氷冷下でフタを開けて太陽光に曝露した。照射は1日で完了する以外に、天候により、2日あるいは3日に分けて行った。照射DNA中に形成した各2量体型損傷はモノクローナル抗体 (TDM-2, 64M-2, DEM-1) を利用したELISAで測定した。同時に、UV-B照射DNA中の損傷も測定した。
【結果と考察】 太陽紫外線およびUV-Bは共に線量依存的にCPDを誘発した。両者のCPD誘発曲線を重ねてグラフ化した結果、UV-B 100 J/m2および太陽紫外線1~2時間照射がほぼ同等のCPDを誘発することがわかった。また、UV-Bは線量依存的に6-4PPを誘発するのに対し、太陽紫外線の6-4PP誘発の効率は悪く、照射後3~4時間でピークになってから減少する曲線を描いた。これとは逆に、UV-BはDewarPPをほとんど形成できない(OD値が0.1以下)のに対し、太陽紫外線は線量依存的にDewarPPを誘発した。さらに、太陽光照射1時間ごとの損傷量の合計と対応する連続照射の損傷量を比較した結果、6-4PPでは連続照射で損傷量が大幅に減少するのに対し、DewarPPでは差異が見られなかった。これらの結果は、6-4PPのDewarPPへの変換率は太陽紫外線量に依存して増加する一方、6-4PP誘発率は一定であるため、DewarPPがCPDにつづく第2位の太陽光誘発DNA損傷になることを示している。現在、付着培養させたヒト細胞に対する太陽光照射も行っているので合わせて報告する。