抄録
ファンコニ貧血(Fanconi anemia; FA)は、悪性腫瘍、染色体不安定性、DNAクロスリンカーに対する著しい感受性などによって特徴付けられる稀な遺伝性疾患である。15個のFA遺伝子によって構成されるFA経路は、停止した複製フォークを安定化する機能をもつと考えられている。DNA損傷や複製ストレスによって、FA経路の中心分子であるFANCD2とFANCIのモノユビキチン化が起こるが、その反応は、FAコア複合体と呼ばれるマルチサブユニットE3ユビキチンリガーゼを介して行われる。FANCD2のモノユビキチン化はDNAクロスリンク修復において極めて重要であるが、DNA損傷応答においてFANCD2がどのように機能しているのか、あまりよくわかっていない。そこでこの研究で我々は、FANCD2/FANCI結合タンパク質の同定を試みた。HA-FLAGタグを付加したFANCD2またはFANCIを恒常的に発現するHeLa S3細胞にDNA複製阻害剤であるハイドロキシウレアを処理後、FANCD2またはFANCI複合体を二段階免疫沈降によって精製し、質量分析によって結合タンパク質を同定した。FANCD2/FANCI複合体は、最近報告されたFAN1ヌクレアーゼ、FAコア複合体、そしてFA経路において重要な働きがあると考えられる新規の結合タンパク質を含んでいた。これらの新たな知見をもとに、FANCD2の新たな機能について議論したい。