農村経済研究
Online ISSN : 2187-3933
Print ISSN : 2187-297X
ISSN-L : 2187-297X
論文
変容する地域社会における黒川能維持の方向性
-質的データを用いた黒川能維持モデルの構成-
小山田 晋長谷部 正平口 嘉典
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 33 巻 1 号 p. 105-115

詳細
抄録

山形県黒川で500年にわたり受け継がれてきた黒川能は,地域社会の変容の中で少しずつそのあり方を変えてきた.本研究では,文化資本としての黒川能の維持を地域社会の持続可能性に関連づけ,黒川能の維持に対する地域住民らの意識や試みの総体を住民へのヒアリングデータからボトムアップでモデル化することで,現代において地域伝統文化を維持していくための一つの方向性を示すことを目的とする.2014年2月23~24日にかけて,黒川住民29名に対するヒアリング調査を行った.調査内容は,農業への従事状況と今後の営農意向,そして幼少期から現在に至るまでの農業と黒川能への関わり方である.収集したデータは,グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析し,モデル構成を行った.モデルの含意としては,まず,黒川能の維持に関して機能してきた「慣習重視思考」は,今後衰えていく可能性がある.その場合,黒川能の省力化,収益性向上,経済性評価等が必要になってくる.そのためには,黒川能の再解釈が欠かせない.「伝統」という意味づけは,住民間で広く共有される可能性がある.しかし,神事としての意味づけは,とくにIターン者には共有されない可能性がある.こうしたことを踏まえ,黒川能維持への取り組みにおいて,「伝統」と「神事」の両側面を時に応じ使い分けることで,各主体が共存していけるような方策が今後必要となってくるだろう.

著者関連情報
© 2015 東北農業経済学会
前の記事 次の記事
feedback
Top