農村経済研究
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2019年度 第55回宮城大会報告特集 津波被災地域の新たな農業の展開とその担い手
農業生産と,共にイグナル
-東日本大震災より8年間の取り組みと今後の展望-
阿部 聡石塚 修敬
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2020 年 38 巻 1 号 p. 38-47

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抄録

本稿の目的は,東日本大震災による被災を契機に設立した株式会社イグナルファーム(宮城県東松島市,以下「イグナル」)を事例に,これまでの8年間の取り組みと,その中で顕在化した様々な課題の整理を通じて,今後の取り組みの方向を提示することである.イグナルは,若手農業者4名が集まって国や県の助成金を活用し,2012年4月よりミディアムトマトの栽培から開始した.その後,独自の販路形成を目指し,株式会社ローソンへの販売をきっかけに,同社とイグナルの出資によってLF石巻を設立した(2014年1月).同年6月にはGLOBAL.G.A.P.の認証を取得し,大手小売向けの販路開拓に有効に作用した.更にほぼ同時期のイチゴ栽培の開始をきっかけに,役員配置を事業部門別から品目別分担に切り替えた.これにより“誰もが代表”という意識は,“機能的配置に基づく代表意識”に変化した.雇用労働力は20代が中心で,栽培者としての技術取得は勿論,パートタイマーへの適切な指示能力も含め,経営者としての成長を期待している.また,技能実習生の将来の活躍の場を広げるため海外進出にも関心を向けている.ただし,まずは現在の生産拠点における生産数量目標の達成,そして,“共にイグナル”ためにも新たに地域農業を担える人を育成し,彼・彼女らの独立に向けた支援を充実させることが課題である.

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© 2020 東北農業経済学会
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