抄録
Arガスクラスターイオンビーム(Ar Gas Cluster Ion Beam: Ar-GCIB)エッチングを用いて強誘電体材料であるBaTiO3単結晶の表面清浄化およびXPS測定を試みた.特に,誘電特性に影響のあるTiおよびBaの化学結合状態に着目し,エッチングダメージの有無を評価した.また,比較のためArモノマーイオンエッチングを用いた清浄化も行った.その結果,Ar-GCIBエッチングを用いた表面清浄化(ビームエネルギー:2.5 keV,クラスターサイズ:2000,エッチング時間:~240 sec)では,TiおよびBaのXPSスペクトルがともに変化しなかった.一方,Arモノマーイオンエッチングによる表面清浄化(ビームエネルギー:2 keV,エッチング時間:~240 sec)では,BaTiO3構造中のTi4+が還元され,Ti3+の成分が現れることが明らかとなった.また,Ba 3dのXPSスペクトルにも2 eV程度のピークシフトが高束縛エネルギー側に生じた.従って,Ar-GCIBエッチングはBaTiO3単結晶の表面清浄化に有効であるといえる.