Pennの単極近似(SPA, Single pole approximation)を用いた固体における電子の非弾性平均自由行程(IMFP,Inelastic mean free path)の計算法について解説する.SPAは計算も比較的簡便であり,プログラミングも容易である.相対感度係数を用いたオージェ電子分光法(AES,Auger Electron Spectroscopy)やX線光電子分光法(XPS,X-ray Photoelectron Spectroscopy)による表面定量分析では電子のエネルギーを150 eVもしくは200 eV以上のエネルギー領域を対象とすることが多い.SPAによるIMFPの計算値(SPA-IMFP)はPennの原論文には200 eV 以上のエネルギー領域では3 %以内の誤差でFPA(Full Penn algorithm)による計算結果(FPA-IMFP)に一致すると記述されているが,その詳細な比較はなされていない.このSPA-IMFPは計算が簡便であり,適用できるエネルギー範囲とFPA-IMFPとの誤差範囲が確定すれば,大いにその実用性が上がる.そこで,SPA-IMFP計算では2つのアルゴリズムで別個に計算プログラムを作成し,41種の元素固体(Li, Be, C(graphite), C(diamond), C(glassy), Na, Mg, Al, Si, K, Sc, Ti, V, Cr, Fe, Co, Ni, Cu, Ge, Y, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, In, Sn, Cs, Gd, Tb, Dy, Hf, Ta, W, Re, Os, Ir, Pt, Au, Bi)で,SPAとFPAで計算したIMFP値の一致度を確かめた.これにより,FPAに対して5 %程度の差を許容するのであれば,200 eV-10 keVの間でSPAはIMFP の計算に使用できる.このエネルギー領域では,41 種の元素固体におけるSPA-IMFP とFPA-IMFPの相対差の絶対値の第3四分位数は4 %以下であった.
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