人工知能学会第二種研究会資料
Online ISSN : 2436-5556
自分を知る教育(その二):身体の二重性~二重生命・離見の見・幽体離脱
跡見 順子
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

2009 年 2009 巻 SKL-05 号 p. 03-

詳細
抄録

和英辞典(小学館のプログレッシブ和英中辞典)を「身体」で引くと,the body,(身体の)physical; bodilyとそっけない.熟語も身体検査や身体障害のみの引用しか掲載していない.しかし,日本においては,からだについて,「身体」を「身」と「体」の両方の意味を載せて私たちが理解していることに 異論はないだろう.「身体」の文字通り,日本人は「身」と「体」を使い分けてきた.和英辞書で,「身(み)」と「体(からだ)」をひくと,ともにthe body, oneselfという語を用いた説明がされているが,日本語の例においては,「体」からは,大きい体,小さい体など形態の大小や,生理的生物学的な体の状態を示すときに用いることが分かる.health, automatic, physical body,つまり物質としての形(解剖学的なリアルな体)が,イメージされてくるが,「身」に対する説明には,healthやautomaticな語は使われず,本人の意識や決心などを含む「全体の自己」の行動を表す語として用いられていることが分かる.場の理論で有名な清水博は,最近,人間の存在を「二重生命」としてとらえることを提唱している.近代科学は,自己を科学の対象から除くことで急進展させてきた.しかし一方で現実社会においては,「生活習慣病」のように個人の生きる態度そのものが病名として使われるようになって久しい. しかし,自分自身を含む科学や教育は,はたしてこの日本において行われているのだろうか.前回,東京大学の教養課程の必修授業の教育プログラムとして導入した「自分を知る」5つのプログラムを紹介したが,プログラムの中味をどのように位置づけるか,あるいは背景となる科学の領域をどう形成してゆくかについての問題の視点についてはまだほとんど論議されていない.今回は,重要な視点の一つとして,二重生命・離見の見・幽体離脱のあいだの関係性について,脳科学・生命科学から考えてみたい.

著者関連情報
© 2009 著作者
前の記事 次の記事
feedback
Top