人工知能学会第二種研究会資料
Online ISSN : 2436-5556
人工市場シミュレーションを用いた取引システムの高速化が価格形成に与える影響の分析
水田 孝信則武 誉人早川 聡和泉 潔
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2015 年 2015 巻 FIN-015 号 p. 07-

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抄録

近年,取引市場同士の競争や大口の取引を行う投資家の要望などにより,取引市場のシステムの高速化が行われている.取引システムの高速化により,流動性を供給する投資家の注文量が増え流動性が向上したという評価がある一方,過度な高速化は市場の運営コストや取引参加者のシステムコストを増大させるという批判もある.そこで本研究では,人工市場モデルを用いて,データ転送時に発生する遅延(レイテンシー) のみが異なる場合を比較し,レイテンシーが価格形成や市場効率性に与える影響を分析した.レイテンシーが注文間隔の平均よりも大きい場合,レイテンシーが大きくなるにつれて,価格のトレンドが止まった場合に予想リターンの修正が遅れ,不要な順張りの取引が増加し約定率が上昇,ビット・アスク・スプレッドが広くなり,市場が非効率になっていくことが示された.このため,市場の効率性を保つにはレイテンシーが注文間隔よりも十分小さいことが必要であることが示唆された.また,東京証券取引所の取引データを用いて,シミュレーションの分析結果と比較して考察を行った.東京証券取引所の取引システムは,arrowhead 稼動前は慢性的に本研究が示唆したメカニズムによる市場非効率化が起きていた可能性がある.一方arrowhead 稼動後は,少なくともこのようなメカニズムでの市場非効率化が,数分といった時間スケールにおいても,慢性的には起きていないことが示唆された.本研究の特徴は,レイテンシーが大きいことのみで価格形成を非効率にする恐れがあることを示したことである.他の投資家よりも高頻度に取引を行う投資家(High Frequency Trading, HFT) の影響などは今後の課題である.

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© 2015 著作者
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