2020 年 2020 巻 FIN-024 号 p. 28-
株式貸借市場は,空売りを通じて株式市場(売買市場)に流動性を提供するとともに,資金調達機会や収益機会を提供するという重要な役割を担っている.空売りやその規制が株式市場にどのような影響を与えるかについて多くの研究が存在しており,人工市場はその分析手法の一つであるが,既存の人工市場を用いた研究は現実の空売りのメカニズムを適切に反映できていない.つまり,貸借市場における供給制約や需給に基づく貸株料も空売りへの制約となり,効率的な株式市場の形成のためには流動性の高い貸借市場の存在が条件となると考えられる.そこで本研究では株式市場に加え,貸借市場も考慮した連成型人工市場を構築し,貸借市場の流動性の変化が株式市場の効率性に与える影響を調べる.分析の結果,貸借市場の流動性が高まると平常時の売買市場の効率性は高まるものの,ファンダメンタル価格が急落した際の効率性は損なわれる可能性があることが分かり,空売り規制の設計の際などに貸借市場の流動性も考慮する必要があることを示した.