抄録
左心バイパスにおける脱血部位として、肺動脈使用の有用性を動物実験にてこれを確認し、臨床応用を試み検討を行なった。
実験方法は5頭の雑種成犬を用いて、左開胸下に3本の同一サイズのカニューレを(1)FV、(2)LA、(3)PAにそれぞれ押入し、各々を連結管にて1本へ接続して人工肺を経て大腿動脈(FA)送血とする回路を作成した。3ケ所の脱血部位を別々に開閉させ、下行大動脈遮断下にFV、LA、PAの脱血の良否を、規定のバイパス流量(1.2l/m)を得るのに必要な落差をもってこれを判定した。
3群中必要な落差はPAが有意に少なく、次いでLAが有利であり、FV脱血が最も大きな落差を必要とした。
本PA脱血によるバイパスを補助手段とした胸部大動脈手術症例は8例であり、要した大動脈遮断時間は24~207分であったが、手術死亡はなく、良好な結果を得た。