抄録
人工弁置換術後に使用される抗血小板剤の一つにアスピリン(以下ASA)があるが, 従来の投与量ではaspirin dilemma現象による抗血小板作用の低下が指摘されている。そこで人工弁置換術症例(A群)と他の開心術症例(B群)に, 一日81mgの少量ASAを投与して, 出血時間・血小板凝集能・Thromboxane-B2(TXB2)および6-ketoPGF1α(6KP)値を測定した。出血時間は両群ともに正常範囲にあり, 出血症状も認めなかった。ADP凝集能には有意な効果はなく, コラーゲン・アラキドン酸凝集能で両群ともに有意に抑制され, 特にアラキドン酸では著名な抑制効果を認めた。TXB2および6KP値は個人差が大きく有意な変化はないが, TXB2値の上昇や6KP値の有意な低下は認めなかった。TXB2/6KP比はB群で安定した低値を示し, A群では術前にやや高値だったが退院時にはB群に近い低値となり, aspirin dilemma現象はみられなかった。