人工臓器
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ポリエポキシ化合物処理による生体弁の開発
大越 隆文野一色 泰晴冨澤 康子森島 正恵小柳 仁
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1990 年 19 巻 1 号 p. 299-302

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抄録

抗血栓性に優れ, 石灰化, 変性をきたさない生体弁を開発する目的で, glycerol polyglycidyl ether(ポリエポキシ化合物=PC)処理による生体弁を作製し, 実験的検討をおこなった。雑種犬より採取した大動脈弁をPCで架橋した(PC valve)。PC valveの中枢側及び末梢側に人工血管を縫着してconduitとし, これを雑種犬に, 右室―肺動脈バイパスとして植え込み, 主肺動脈を結紮した。PC valveの圧較差は5mmHgであり, 肺動脈拡張期圧は19mmHgと保持されていた。同手術を施行した生存犬を作製した(7頭)。御後36日目(1頭), 37日目(1頭)の右室造影では, PC valveは良く機能しており, 識別可能な血栓形成を認めなかった。PCにより架橋すると材料は, GA架橋同様, 強度を増すが, GA処理が材料を黄変, 硬化させ, 疎水性にするのに比べ, PC処理では本来の白色と柔軟性を保持する。また, 材料は高親水性かつ高含水性となるため, 十分な坑血栓性が付与され, かつ, 材料中への栄養, 酸素, 電解質等を含有した水分の浸潤, 拡散に有利であり, 材料の変性防止に有用である。PC処理した人工血管の長期例において, 石灰化がないと報告されているので, PC処理された生体弁の場合も石灰化しにくいと考えられる。従って, PC valveは良好な弁機能と, 十分な抗血栓性を兼備した生体弁であると同時に, 石灰化, 変性がおこりにくく, 耐久性にも優れていると期待される。

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© 一般社団法人 日本人工臓器学会
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