抄録
心血管系の術後合併症として, 神経精神症状の出現は高令者患者の増大と共に重要な問題となっている。その術後合併者の増大の原因としては, 補助手段である体外循環における脳循環の変化が重要と考えられる。今回我々は, 経頭蓋超音波ドプラ法により中大脳動脈の血流速を測定して体外循環における脳循環の変化を検討した。体外循環前, 中, 後での中大脳動脈の血流速の平均は, 14.0±1.6(S. E)cm/Sec, 18.4±2.2cm/sec, 27.0±2.4cm/secであり, 体外循環中, および後は前値に比べ有意な増加を示した(p<0.01)。また酸素含量×血流速を酸素運搬指数として, 酸素運搬能の指標とした。体外循環前, 中, 後の酸素運搬指数はそれぞれ254.9±30.8, 197.1±24.8, 326.6±35.5であり, 体外循環中は有意に低下していた(p<0.01)。体外循環中の酸素運搬能の低下及び体外循環後の酸素運搬能の回復は, 低体温による脳代謝の低下を考慮すれば, 体外循環中にも脳循環の生理的な調節機転が保たれていると考えられた。本方法は, 簡単に血流速の測定が可能であり, 開心術中の脳循環モニターとして有用であると思われた。