1991 年 20 巻 5 号 p. 1434-1439
完全人工心臓(TAH)が自律神経に与える影響について検討を加えるため, 交感神経活動を直接計測して解析した. 自然心臓との比較のため, TAHは両心バイパス方式とし, 交感神経活動の代表として, 腎交感神経を選択した. 健常雑種成犬を用い, 静脈麻酔下に, 左房脱血, 下行大動脈送血方式と, 右房脱血, 肺動脈送血方式の補助人工心臓を二つ装着した. 経後腹膜的に左腎臓にアプローチし, 腎交感神経活動(RSNA)を計測した. このシステムを用い, 自然心臓拍動下と電気的心室細動後のTAH駆動下にてRSNAを比較検討した. その結果, TAH移植動物では, RSNAにはTAH駆動による動脈圧波形に同期した周期性変動が認められ, 関連度関数による解析では, 動脈圧波形とRSNAに高度の線形性が認められた.したがって, 交感神経系の中枢における発振機構が, 圧受容体反射機構により, TAHの人工的な動脈圧波形に引き込まれているものと考えられた.