抄録
Spiml Vortex型人工心臓は、円錐形の心室形状と心室円周方向に設置された入口部の方向により心室内に形成される連続的に維持された旋回流のために、良好な流れ場の形成、特にダイアフラムとハウジングとの結合部分(H-D jmction)での洗い流しが積極的に行われることが報告されている。一方、入口に用いられる弁が(St. Vincent's Mono Flap Valve)傾斜円盤弁の一種であるため、弁の装着方向によって入口部からの流れが偏流され、これに伴い心室内の流れが大きく影響されることが考えられる。そこで本研究では、第1段階として弁装着方向が心室内流れに与える影響をレーザー流速計による流速及び乱流速度の測定と、蛍光ビーズを用いた流れの可視化を用い、定性的及び定量的に検討しようとするものである。
Spiral Vortex型人工心臓は遠心ポンプと回流回路によって形成された定常流装置に装着され、実験は定常流の下で行った。弁の主弁口が心室中心に対して下向き、上向き、外向き、内向きの4方向に装着した場合に関し、心室内の流れ場の相違を比較検討し、流れ場の解析をした。定量的な流れ場の測定は、日本科学工業社製の1次元レーザー流速計(FLV: Fiberoptic Laser Velocimeter, Model 8801 and Mode 18015 Frequency Tracker)を用いて行い、入口部下流の3点(入口下流、45° 下流、及び90°下流)における直径方向及び高さ方向3個所の速度分布及び乱流速度分布の相違について分析した。定性的な流れ場の測定は、蛍光ビーズ(スチレンビーズ)とスリット光を用いて流れの可視化を用い、35mmカメラ及びHi8タイプの8mmビデオカメラを用いて記録し、検討した。
実験結果により、以下の結論を得ることが出来た。
(i) Spiral Vortex Pump内の流れは、旋回流が形成されることが確認出来た。
(ii)入口部の角度と弁の開放角により影響された入口部下流の流れは、弁の装着方向により大きく影響されることが分かった。
(iii)主弁口が上側に装着した場合、入口部の角度を相殺する方向で流れが形成され、その結果、速度分布が比較的時間的に安定した流れが形成された。
(iv)主弁口が下側に装着した場合、入口部の角度と弁による偏流が加えられ、ダイアフラムに強い角度をもって流れ、その結果時間的に不安定な流れが形成された。