本研究は、芸術家/研究者/教育者の自己省察と探求の方法「A/r/tography」が美術のワークショップ実践者の省察と探求過程にどのような促進効果をもたらすのかを明らかにすることを目的としている。特に、A/r/tography の特徴の一つである「芸術表現と記述表現を同時に用いる」ことの効果を検討するために、マンガ表現を用いた事例を分析した。
マンガ表現の特徴を踏まえて、対象事例において実践者(探求者)の省察と探求がどのように表現されているのかを分析した結果、実践者の振り返りで重要な場面が抽出されマンガのコマとして具体的に描写され、その場面に応じて、実践者の行動や考えたことがセリフなどの言葉として表されていることがわかった。対象事例では 省察と探求過程が視覚的・記述的に表現されていることが明らかになった。
事例分析を踏まえ、芸術表現と記述表現を同時に用いることが実践者の省察と探求にもたらす促進効果を総合的に考察した結果、次のとおり結論に至った。記述表現と芸術表現を同時に用いることで、省察・探求対象に対して様々な側面を多角的・包括的に捉え、芸術表現と記述表現の痕跡として視覚化することが可能となる。そして、それぞれの痕跡はさらに省察・探求の素材を充実させ、省察・探求プロセスに「描画/記述行為と知覚のサイクル」と、描画/記述行為についての省察が含まれた「内面の発見」をもたらすことで、より深い省察・探求プロセスが可能なる、と推察された。