芸術学論集
Online ISSN : 2435-7227
鈴木其一筆《夏秋渓流図屏風》の季節描写について
樹木表現と土坡を中心に
近本 祐紀子
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2024 年 5 巻 p. 31-40

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抄録

本論は幕末期に活躍した琳派の絵師、鈴木其一による季節の表現方法について解明するものである。特に《夏秋渓流図屏風》の「夏秋」を描き分ける表現技法を分析するため、檜葉と土坡の表現方法に着目する。古来より季節の表現は「景物」による描き分けが常であった。しかし、本作は「色」による描き分けが土坡にあると先行研究で指摘されている。これまで行われた「色」に関する調査は、目視によるもので印象論に偏っていた。本論では、マンセル方式のカラーチャートを用いて詳細に檜葉や土坡、渓流の「色」を分析した。そして、従来渓流を中心に考察されてきた本作を樹木および夏秋と渓流の対構造の視点から捉え直し、其一の巧みな描画技法とその作意について「色」の観点も踏まえ分析した。科学調査のみでは明らかにできない、現代に比べ色数が少ない時代の日本絵画の画材が画面にもたらしてきた、機能や効果、役割について解明した。

其一の表現する季節(時)表現の仕掛けは、師である抱一の様式を取り入れた「夏秋」の主題に留まらず、①緑部分の土坡の色味を描き分ける点、②岩肌部分の土坡の色味や濃淡で描き分ける点、③檜葉に群緑の表現を取り入れ、革新的な色彩効果で深みある青緑の色味を生み出す点が特徴として挙げられる。

其一の日記『癸巳西遊日記』に残る西国巡りは、其一の制作活動において、彼の感性に多大な刺激をもたらした。また、師である抱一とそれに関連する人々が与えた表現感覚は、其一の独自性を構築する上で重要な役割を果たし、生涯にわたり大きな影響を与えたのである。本論では、その転換期の作例について取り上げることにした。

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