日本アスレティックトレーニング学会誌
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特集
特集「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会におけるアスレティックトレーナーサポート」によせて
小笠原 一生
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2022 年 7 巻 2 号 p. 173

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抄録

本特集では,2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック大会においてアスレティックトレーナー(AT)として活躍された先生方に執筆の労をお願いし,大規模国際スポーツ大会における活動内容を学術的レガシーとして残すことを目的とした.

まず,玉置龍也先生(横浜市スポーツ医科学センター)から,大会全体にわたる医療サービス体制構築について,保有資格による役割や呼称の定義から,スタッフ確保,教育にいたるまでを包括的にご報告いただいた.続いて,鈴木岳.先生には,選手村フィットネスセンターにおける,医療とトレーニングの連携に基づく包括的なアスリートサポートを具現化された一連の活動について,ハード・空間を含む環境づくりから人材・サービスに至るソフト面までを詳しくご報告いただいた.

競技会場における活動として,清水結先生(バスケットボール会場,とつか西口整形外科)と鈴木龍大先生(ウェイトリフティング会場,トヨタ記念病院)から,競技会場の医療サービスを統括する立場としての活動をご報告いただいた.バスケットボールでは,特に新競技である3×3では参考となるマニュアルがない状態からの体制構築であり多くの試行錯誤があった.しかし結果的として以降の五輪でのレガシーとなる様々な知見が得られた.一方ウェイトリフティングでは,競技特性を熟知したスタッフやスポーツ現場の経験を持つスタッフが少ないところから体制構築であったが,周到な準備と事前トレーニングにより競技の安全が支援されたことが紹介された.

夏季五輪での最大の関心事の一つは暑熱対策である.細川由梨先生(早稲田大学スポーツ科学学術院)にはプレホスピタル対応に重点化した東京オリパラにおける労作性熱射病対策の体制構築,スタッフ教育,そして実践を非常に詳しくご説明いただいた.

選手団の一員としてのAT活動として,岩谷美菜子先生(公益財団法人日本ハンドボール協会,ながい接骨院)にはハンドボールでの活動をご報告いただいた.女子ハンドボールでは,地の利を活かし,選手団内のATと,団外のATの役割を機能的に分け,大会期間中の重篤外傷に対応した事例が紹介された.また,前田准谷先生(国立スポーツ科学センター)にはパラリンピック車椅子テニスでの活動を報告いただき,選手個別の身体状態に合わせたコンディショニングや,用具を含めた個別環境への対応など,パラ競技特有の配慮事項に対するATとしての役割をわかりやすくご紹介いただいた.

新型コロナ感染症の影響下で,かつ開催が1年延期となった東京オリパラ2020であった.依然として高度な感染症対策が求められる中での活動は本邦のアスレティックトレーニングの歴史に残るものであり,極めて貴重な資料である.本特集が今後の大規模国際スポーツ大会におけるAT活動に貢献することを祈念する.

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© 2022 一般社団法人 日本アスレティックトレーニング学会
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