黄色ブドウ球菌209P株より分離した安定L型菌と細胞壁自己融解によるオートプラストを用いて黄色ブドウ球菌が細胞壁を欠落した場合,どの様な適応変化を生じているかを膜の主要構成成分である脂質について解析した。リン脂質組成は両菌ともにカルジオリピンが50%以上に著明に増加し,その前駆体であるフォスファティディルグリセライドは減少した。なおその組成比率は両菌においてほとんど類似していた。カルジオリピンの著増は細胞壁欠落にともなう適応変化であろう。中性脂質組成ではコレステロールの存否に大きな差があり,安定L型菌でのみコレステロールが存在し,それはL型菌で合成されたものであることが判明した。この事からコレステロールは単に細胞壁欠落にともなうものでなく,L型化誘導という特殊条件下で起きる適応変化であると結論づけられる。