日本細菌学雑誌
Online ISSN : 1882-4110
Print ISSN : 0021-4930
ISSN-L : 0021-4930
コレラ菌由来伝達性Rプラスミッド
加納 堯子
著者情報
ジャーナル フリー

1981 年 36 巻 2 号 p. 465-474

詳細
抄録

コレラ菌由来の伝達性Rプラスミッド,pJT-17, pJT-45, pJT-12およびpJT-13を分離した。pJT-17, pJT-45は,1977年,ナイジェリアにおいて,pJT-12, pJT-13は,1978年,東南アジアにおいて,それぞれコレラ患者から臨床分離されたコレラ菌,IF-17, IF-45, T 1203およびT 1362株より検出されたものである。本報告では,これらプラスミッドの遺伝学的性状について検討した。
1) これらのプラスミッドは,いずれもクロラムフェニコール(CP),スルホンアミド(SA),アンピシリン(ABPC)耐性に加え,pJT-12は,カナマイシン(KM)耐性を,pJT-17は,テトラサイクリン(TC)とストレプトマイシン(SM)耐性を担う4剤および5剤耐性であつた。またpJT-45とpJT-13は,上記6剤耐性すべてを運ぶ。これらが担う薬剤の耐性度は,SM, SA, KM, ABPCに対しては高度耐性,CMには,中程度耐性,TCに対しては,pJT-13を除いて低濃度耐性であつた。
2) 4つのプラスミッドは,すべて接合により,薬剤耐性を同時に伝達した。
3) 薬剤耐性の伝達,およびプラスミッド複製は,30∼42Cの温度範囲内では,非温度感受性であつた。
4) 4つのプラスミッドは,ともに不和合群C群に属した。
5) プラスミッドDNAの分子量は,アルカリ庶糖密度勾配遠心,および電子顕微鏡観察により,pJT-17とpJT-45は,それぞれ,約90, 99メガダルトン,pJT-12とpJT-13は,ともに,約106メガダルトンと測定された。いずれも環状(CCC) DNAであつた。
6) pJT-17, pJT-45の伝達頻度は宿主菌の対数増殖期で高く,定常期にくらべ約10,000倍も上昇する。この現象は,コレラ菌でも大腸菌でも同様で,宿主菌の種類に関係なく,プラスミッドの特異性に由来するものであつた。さらに,電子顕微鏡による性線毛観察から,pJT-17, pJT-45をもつ菌の定常期細胞は,少数の菌体が1∼2本の性線毛を形成するにすぎないが,対数期では,ほとんどの菌体が多数の性線毛を形成することが判明した。このことから,pJT-17, pJT-45が示す特異な伝達頻度は,対数増殖期の高い性線毛形成によるものと考えられた。
一方,pJT-12, pJT-13の大腸菌間の伝達頻度は,37C, 2時間の接合培養条件下で,それぞれ,2.4×10-2, 3.4×10-3で,宿主菌の増殖期による差は顕著ではなかつた。

著者関連情報
© 日本細菌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top