う蝕の主要な病原因子であるミュータンスレンサ球菌は複数の菌種の総称であり, 血清型からも8型 (aからh型) に分類される。ヒトから分離される菌種は Streptococcus mutans (血清型c/e/f) と Streptococcus sobrinus (同d/g) にほぼ限定され, いくつかの共通の表現型を示す。中でも, 多くの単糖やオリゴ糖からの酸産生, およびスクロースを基質とする不溶性で固表面に付着性のα-グルカンの合成能は, これらの菌種のう蝕誘発能を担うビルレンス因子とみなされる。本研究では特に, グルコシルトランスフェラーゼ (GTase) の分画と精製, 局在および付着促進等の特徴を比較・検討した。両菌種ともに, 水溶性グルカンおよび不溶性グルカンを合成するGTaseが協調的に作用してはじめて生育菌体の強固な付着が生じる。さらに免疫学的, 分子生物学的, 形態学的方法を用いてGTaseとその産物の特徴を明らかにした。ついで, GTaseの機能を特異的に抑制すると, ミュータンスレンサ球菌感染SPFラットにおける実験う蝕が有意に抑制されることを示した。あわせて, ミュータンスレンサ球菌の生態学, 分類学, 菌体成分の化学的性状, GTaseを中心とするビルレンス因子, 動物における実験う蝕モデルの作成とその応用例について述べた。