日本細菌学雑誌
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大腸菌ゲノムの多様性に関する研究
大西 真
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2004 年 59 巻 3 号 p. 449-455

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抄録

同一の細菌種においても, 菌株間によって形質が異なる場合がしばしば存在する。このような多様性はそれぞれの菌株のゲノム情報の違いに由来すると推測されるが, その実体は必ずしも明らかではなかった。本研究では腸管出血性大腸菌O157 Sakai 株の全ゲノム配列を決定し, 非病原性大腸菌K-12ゲノムとの比較解析から大腸菌ゲノムの菌種内多様性の実体とその多様化のメカニズムの解明を試みた。Sakai 株の染色体は非病原性大腸菌K-12株に比べて約1Mb大きいが, 染色体基本骨格は高度に保存されていることを明らかにした。さらに, サンプルシークエンシングの手法を用いて, Sakai 株には予想以上に大量の菌株特異的DNAが存在すること, そしてその多くが外来性遺伝子である可能性を示した。続いて, ゲノム全塩基配列の決定およびK-12との比較解析から大腸菌染色体の基本骨格と考えられる4.1Mbの共通領域と1.4MbにおよぶO157特異配列を同定し, 大量の外来性遺伝子の水平伝達による獲得がO157の出現に大きな役割を果たしたことを明確にした。また, バクテリオファージが菌種内進化において主要な役割を果たしている可能性やO157が自然界に存在する多様なファージの生産場所となっている可能性を示した。さらに, 全ゲノムPCRスキャンニング法によりO157菌株間には高度のゲノム構造の多様性が存在することを明らかにした。特にStxファージを含むプロファージ領域に顕著な多様性が存在することを見いだし, O157のStxファージにも様々なタイプが存在することをはじめで示した。

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