Breeding Research
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Research Paper
QTL analysis of resistance to Fusarium wilt in cultivated strawberries
Kazunari IimuraKimihisa TasakiYoshiko NakazawaMasazi MorishimaKiyoshi NamaiMasayuki Amagai
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2021 Volume 23 Issue 2 Pages 101-108

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摘 要

イチゴ萎黄病(Fusarium oxysporum f. sp. fragariae)は,イチゴ栽培における難防除病害で,イチゴ萎黄病に対する抵抗性はイチゴ育種における重要形質の一つである.本研究では,抵抗性品種の育成の効率化を図るため,イチゴ萎黄病抵抗性に関する遺伝領域の解析を行った.罹病性品種「とちおとめ」と抵抗性品種「アスカウェイブ」を交雑したF1集団のランナー苗と培養苗を作出し,それぞれ異なる条件で接種試験を行った結果,F1集団の発病度の分布から「アスカウェイブ」の抵抗性は,一つの主働遺伝子と複数の量的形質遺伝子が関与していることが推察された.また,「とちおとめ」と「アスカウェイブ」の連鎖地図を用いてQTL解析を行った結果,「アスカウェイブ」の連鎖地図上に,主働遺伝子に連鎖すると考えられる1領域を含む複数のQTLが検出された.

Abstract

Fusarium wilt (Fusarium oxysporum f. sp. Fragariae) is an important disease of strawberries, and disease resistance is one of the important traits in strawberry breeding programs. To improve the efficiency of breeding, we performed a linkage analysis of Fusarium wilt resistance. We produced cultured seedlings and runner seedlings of the F1 population derived from a cross between a susceptible variety ‘Tochiotome’ and a resistant variety ‘Asuka Wave’, and performed QTL analysis. The distribution of disease resistance suggests that one major locus and some quantitative trait loci are involved in the Fusarium wilt disease resistance of ‘Asuka Wave’, and we detected several QTLs including a region linked to the major gene on the ‘Asuka Wave’ linkage map.

緒言

イチゴ萎黄病は,Fusarium oxysporum f. sp. fragariaeによって引き起こされる土壌病害であり(岡本ら 1970),イチゴ栽培種(Fragaria × ananassa)の重要病害の一つとなっている.発病した株は,新葉の黄化や奇形葉の発生が見られ,病徴が進行すると株全体が生育不良になり,やがて枯死する.主な伝染源は,土壌に残存する厚膜胞子で,定植された株の根から侵入し,感染に至る.また,発病した親株からランナーを通して子苗に感染するケースもある(加藤ら 1971小玉 1974).主な防除対策として,定植前土壌への燻蒸剤の施用や太陽熱消毒法,土壌微生物を利用した土壌還元消毒法等の技術が開発されている(篠崎ら 2003小山田ら 2003).しかし,一度発生したほ場では,厚膜胞子が数年間残存することもあり,根絶が難しく,抵抗性品種の開発が望まれている.

イチゴ萎黄病に対する感受性は品種によって異なり,非常に強い主働遺伝子による抵抗性を持つ品種があると考えられている(Mori et al. 2005).しかし,イチゴは果実品質や収量が重要視されることもあり,国内で栽培されている経済品種は罹病性を示すものが多く,主要品種で抵抗性を有するものは少ない.そのため,多くの研究機関で抵抗性品種の開発が行われているが,抵抗性育種を行う場合,接種検定のための植物体の準備,病原菌接種や発病調査の手間や検定場所の確保,安定して発病させることや検定における評価の難しさに加え,育種ほ場への病原菌汚染など,問題が多い.そこで,より高精度で簡易な検定方法として抵抗性判別DNAマーカーの利用が有効と考えられる.

イチゴ栽培種は八倍体(2n = 8x = 56)と非常に高い倍数性を持ち,そのゲノム構造は長らく明らかにされていなかったが,近年は異質八倍体で,染色体は比較的単純な二倍体性の挙動を示すという説が有力になっている(Bringhurst 1990, Kunihisa 2011).そのため,ヘテロ性の高い他殖性植物の連鎖解析に使われるシュードテストクロス法を用い,八倍体イチゴの連鎖地図が報告されるようになった(Lerceteau-Köhler et al. 2003飯村ら 2012).さらに近年では,simple sequence repeat(SSR)マーカーを用いたイチゴの染色体数(n = 28)と同数に収束した連鎖地図が作成されている(Sargent et al. 2012, Isobe et al. 2013).また,国内外でも炭疽病(病原菌:Colletotrichum acutatum)抵抗性連鎖マーカーや四季成り性連鎖マーカーなど,実育種場面で利用可能と考えられるDNAマーカーの開発が進んでいる(Lerceteau-Köhler et al. 2005, Honjo et al. 2016).そこで,本研究では,イチゴ萎黄病抵抗性遺伝子に連鎖するDNAマーカーを開発するため,萎黄病に対して強い抵抗性を持つ「アスカウェイブ」(峯岸ら 1994)を用いてF1集団を作出するとともに,シュードテストクロス法を用いて連鎖地図を作成し,イチゴ萎黄病抵抗性に関するQTL解析を行ったので報告する.

材料および方法

1. 供試材料およびDNA抽出

イチゴ品種は,萎黄病罹病性の「とちおとめ」(石原ら 1996)と抵抗性の「アスカウェイブ」を用いるとともに,「とちおとめ」を子房親,「アスカウェイブ」を花粉親として108系統からなるF1集団を作出し,連鎖地図の作成に供試した.両品種および各F1系統は,ランナー増殖して直径10.5 cm黒ポリポットに移植し,本葉3~4枚に調整したものをランナー苗とし,108系統のうち10株以上のランナー苗が増殖できた99系統を萎黄病抵抗性検定に供試した.また,供試材料からのDNA抽出は,葉組織約1 gを液体窒素で粉砕し,改変cetyltrimethyammonium bromide(CTAB)法(Yamamoto et al. 2001)により行った.

2. 培養苗の作出

無菌培養苗は,「とちおとめ」,「アスカウェイブ」およびF1 108系統のうち74系統について,高野・生井(2008)の方法を用いて作出した.その後,無菌培養苗を培養ビンから出して培地を洗い流し,本葉3枚に調整して水耕栽培で2週間順化(25℃,日長14時間)したものを培養苗とし,萎黄病抵抗性検定に供試した.

3. イチゴ萎黄病抵抗性検定

抵抗性検定は,栃木県内生産者ほ場の発病株から分離したイチゴ萎黄病菌(KMK菌株)を供試した.供試菌株を液体培地(マングビーン20 gを1 lの蒸留水に入れて20分間沸騰し,二重ガーゼでろ過後,オートクレーブで滅菌処理)で25℃,10~15日間振とう培養して滅菌二重ガーゼでろ過し,滅菌蒸留水で各抵抗性検定の濃度に希釈した.

ランナー苗による萎黄病抵抗性検定の病原菌接種は,2007年8月6日に行った.各品種,系統それぞれ10株を供試し,6.2 × 105 bud cell/mlに調整した接種菌液を1株当たり20 ml株元にかん注接種した.接種後は温室内で管理し,接種70日後の発病状況を調査した.発病状況は,5段階評定法(0:発病なし,1:小葉1枚のわずかな奇形,2:小葉2枚以上の奇形,黄化,3:株の萎縮,萎凋,4:枯死)により評価し,[Σ(指数×発病程度別株数)/(4×調査株数)×100]で発病度を算出した.

培養苗による萎黄病抵抗性検定の病原菌接種は,各品種,系統5株を供試し,1.0 × 105 bud cell/mlに調整した接種菌液に根を24時間浸漬した.接種後の苗はインキュベーター内で25℃,14時間日長条件下で管理し,接種56日後の発病状況を調査した.発病状況は,5段階評定法(0:発病なし,1:小葉の奇形,2:黄化,3:株の萎縮,萎凋,4:枯死)により評価し,ランナー苗と同様に発病度を算出した.

4. Amplified fragment length polymorphism(AFLP)マーカーおよびsimple sequence repeat(SSR)マーカーによる多型検出

AFLPマーカーとSSRマーカーのプライマーの作成,マーカーの増幅および検出方法は,飯村ら(2012)の方法に準じて行った.AFLPプライマー256ペアおよびSSRプライマー148ペアを供試した(付表1).

5. 連鎖地図の作成およびQTL解析

連鎖地図の作成はLerceteau-Köhler et al.(2003)の方法に準じて行い,供試マーカーのうちχ2検定(5%水準)によりF1集団でマーカーの有無が1:1分離に適合するものを選抜し,MAPMAKER-EXP 3.0(Wu et al. 1992)を用いて連鎖地図を作成した.地図関数はKosambiの関数を用い,LOD値は5.0に設定した.連鎖解析はF1集団を戻し交雑系統とみなして,マーカーが検出された系統をヘテロ(H),マーカーが検出されなかった系統を劣性ホモ(A)として解析を行った.また,相同染色体に座乗し相反する優性マーカーの連鎖解析を行うために,マーカーの遺伝子型を置き換えたデータ(H→A,A→H)を加えて解析を行い,相同染色体であると考えられる連鎖群同士を統合し地図を作成した.

QTL解析はQTL Cartographer ver. 2.5を用いて,composite interval mapping法により行い,permutation testによって設定したLOD値を超えた領域に抵抗性に関するQTLが存在すると推定した.

6. 萎黄病抵抗性QTLマーカーと発病度の関連性

検出された萎黄病抵抗性QTL領域で,最もLOD値が高い位置に座乗するマーカーに注目し,遺伝子型別にF1系統の平均発病度を算出した.さらに,その遺伝子型別に発病度ごとの頻度分布を明らかにすることで,マーカー遺伝子型と発病度についての関連性を検討した.また,マーカー遺伝子型別に各系統をグループ化し,発病度についてt検定を行った.

7. Blast検索

QTL領域に座乗するSSRマーカーについて,プライマー設計時に用いた濃縮ライブラリのクローン配列をデータベースサイトStrawberry GARDEN(http://strawberry-garden.kazusa.or.jp/)およびGenome Database for Rosaceae(GDR, https://www.rosaceae.org/)を用いてBlast検索を行い,QTL領域の位置の同定を試みた.

結果

1. イチゴ萎黄病抵抗性検定

萎黄病菌接種70日後のランナー苗について,発病度の分布を図1に示した.「とちおとめ」の発病度は22,「アスカウェイブ」の発病度は0,F1集団の平均発病度は35となった.F1系統の発病度は,最低で0,最高で100と連続的に分布していたが,発病度10以下の非常に強い抵抗性を示した系統が最も多く,99系統中,42系統であった.ただし,99系統のうち39系統についてはイチゴ炭疽病と思われる病害が併発したため,試験中に葉上に炭疽病の症状が認められた株および,試験終了後にクラウン部切断面の観察により炭疽病に感染したと判断された株は除外し,5~9株で発病度を算出した.

図1.

F1 99系統のランナー苗における萎黄病発病度分布.

( )内の数値は各品種の発病度を表す.

培養苗を用いて,萎黄病抵抗性検定を行った結果を図2に示した.病原菌接種56日後の「とちおとめ」の発病度は80,「アスカウェイブ」の発病度は0,F1集団の平均発病度は30となった.F1系統の発病度は,最低で0,最高で100と連続的に分布していたが,発病度10以下の非常に強い抵抗性を示した系統が最も多く,供試74系統中35系統であった.また,ランナー苗と培養苗いずれの結果も得られた74系統について,発病度の相関を取ったところ,両者に正の相関(r = 0.763)が見られた(図3).

図2.

F1 74系統の培養苗における萎黄病発病度分布.

( )内の数値は各品種の発病度を表す.

図3.

F1 74系統のランナー苗と培養苗の発病度相関.

点線は近似曲線を,rは相関係数を表す.各品種の( )内の数値は(ランナー苗の発病度,培養苗の発病度)を表す.

2. マーカー検出および,連鎖地図の作成

AFLPプライマー256ペアを両親に供試した結果,「とちおとめ」のみから検出された602マーカーおよび「アスカウェイブ」のみから検出された676マーカーが得られた.そのうち1:1分離に適合するマーカーは「とちおとめ」で474個,「アスカウェイブ」で496個であった.また,SSRプライマー148ペアを両親に供試した結果,「とちおとめ」のみから検出された70マーカーおよび「アスカウェイブ」のみから検出された80マーカーが得られた.そのうち1:1分離に適合するマーカーは「とちおとめ」で50個,「アスカウェイブ」で55個であった.合計で,連鎖解析に供試する1:1分離マーカーが「とちおとめ」で524個,「アスカウェイブ」で551個得られた.栽培種イチゴの高い倍数性により,AFLPプライマー,SSRプライマーとも1組のプライマーセットから複数の分離マーカーが得られるものが見られたが,各マーカーの同座性が不明であることから全ての分離マーカーを優性マーカーとして連鎖解析に用いた.

「とちおとめ」の1:1分離マーカー524個を供試しMAPMAKER-EXP 3.0により連鎖解析した結果,520マーカーが座上する34の連鎖群が得られた.全長は1074.5 cM,マーカー間の平均距離は3.7 cMであった.さらに「アスカウェイブ」の1:1分離マーカー551個を供試して連鎖解析した結果,548個のマーカーが座上する36の連鎖群が得られた.全長は910.2 cM,マーカー間の平均距離は3.4 cMであった.また,得られた連鎖群のうち相反関係にあると推定されて連鎖群が統合されたものは,「とちおとめ」で24組,「アスカウェイブ」で21組であった(表1,付図1,付図2).

表1. 連鎖地図の概要
品種 解析マーカー数 座乗マーカー数 連鎖群数1) 全長(cM) 平均マーカー間距離(cM)
AFLP SSR 合計
アスカウェイブ 496 55 551 548 36(21) 910.2 3.4
とちおとめ 474 50 524 520 34(24) 1074.5 3.7

1) 連鎖群数の( )内の数は相反関係にあるマーカーが統合された連鎖群数を表す.

3. 萎黄病抵抗性QTLの検出

F1集団のランナー苗,および培養苗の萎黄病発病度を用いてQTL解析を行った結果を図4,および表2に示した.permutation testによって設定されたLOD値はランナー苗,培養苗いずれも2.9 となり,LOD値を超えたQTLは「アスカウェイブ」由来の連鎖地図上に2か所検出された.検出された萎黄病抵抗性QTLの1か所はランナー苗,培養苗いずれの結果からも検出され,最大LOD値はランナー苗で23.1,培養苗で20.5,最大寄与率はランナー苗で57.1%,培養苗で69.0%と非常に高かった.最大LOD値を示した位置に座乗したマーカーは,AFLPマーカーAA104,AA300,AA411,AA440およびSSRマーカーAS16の5個であった.もう一方のQTLは培養苗の解析結果からのみ検出され,最大LOD値は3.5,最大寄与率は4.9%であった.各QTLの最大LOD値に座上したAFLPマーカーとSSRマーカーのプライマー配列を表3に示した.

図4.

アスカウェイブの連鎖地図(連鎖群A2,A21)における萎黄病抵抗性に関連するQTLの位置.

アスカウェイブの連鎖地図の連鎖群上で,ランナー苗の検定によりQTLが検出された領域を網掛けのバーで,培養苗の検定により検出された領域を黒塗りのバーで示した.各QTL領域でLOD値が最大になる位置を矢印で示した.

表2. アスカウェイブの連鎖地図上に検出された萎黄病抵抗性のQTL
供試集団 連鎖群 近接マーカー1) 最大LOD値 寄与率(%) マーカー遺伝子型別の平均発病度 有意差2)
ヘテロ 劣性ホモ
ランナー苗 A21 AA104, AA300, AA411, AA440, AS16 23.1 57.1 9 63 **
培養苗 A2 AA364 3.5 4.9 24 39 n.s
A21 AA104, AA300, AA411, AA440, AS16 20.5 69.0 1 54 **

1) 近接マーカーは各QTLの最大LOD値を示す位置から最も近い位置にあるマーカーを示す.

2) 有意差の**はt検定において1%水準で有意差有り,n.sは有意差無しを示す.

表3. 萎黄病抵抗性QTL近接マーカーのプライマー一覧
AFLPマーカー SSRマーカー
マーカー名 EcoRIセレクティブプライマー MseIセレクティブプライマー マーカー名 フォワードプライマー リバースプライマー
AA104 gactgcgtaccaattaca gatgagtcctgagtactc AS16 gtttcatgcggtaagtggctaacttca gtttcaagcattagagtggaagcgaaca
AA300 gactgcgtaccaattatg gatgagtcctgagtactc
AA411 gactgcgtaccaattagc gatgagtcctgagtaccc
AA440 gactgcgtaccaattata gatgagtcctgagtacca
AA364 gactgcgtaccaattacc gatgagtcctgagtaccg

4. 検出されたQTLの効果

最大LOD値を示した位置に座乗したマーカーの遺伝子型別に平均発病度を求めたところ,ランナー苗の結果では,ヘテロ型(H:抵抗性)51系統の平均発病度が9,劣性ホモ型(A:罹病性)48系統の平均発病度が63であった.また,培養苗の結果ではヘテロ型34系統の平均発病度が1,劣性ホモ型40系統の平均発病が54となり,マーカーを有するヘテロ集団の発病度が極めて低かった(表2).

AFLPマーカーAA300のマーカー遺伝子型別のF1系統発病度の分布を図5に示した.ランナー苗の結果では,ヘテロ型の51系統のうち42系統が発病度10以下であったが,残り9系統は高い発病度を示し,発病度100を示す系統も見られた.劣性ホモ型の48系統はすべて発病度が10より高く18~95の発病度を示した.培養苗の結果では,ヘテロ型の34系統全てが発病度10以下と低い値を示した.劣性ホモ型の40系統は10~100の発病度を示した.

図5.

萎黄病抵抗性QTLに座上するマーカーAA300の遺伝子型別発病度分布.

AFLPマーカーAA300を持つ系統をヘテロ(H),持たない系統を劣性ホモ(A)とし遺伝子型別に発病度の分布を示した(上段:ランナー苗,下段:培養苗).

5. Blast検索

QTL領域に座乗しているSSRマーカーAS16のプライマー設定に用いた濃縮ライブラリのクローン配列を用いてBlast検索を行った結果,Strawberry Garden,GDRともにF. × ananassaの第2染色体に高い相同性を持つ配列が検出された(表4).

表4. SSRマーカーAS16の周辺配列を用いたBlast検索結果
データベース ターゲット配列 相同性1) 期待値
Strawberry Garden FAN_r2.2ch2Avb 566/572(98.95) 0
FAN_r2.2ch2Ava 566/572(98.95) 0
FAN_r2.2ch0 533/572(93.18) 0
GDR Fvd2-3 534/572(93.36) 0
Fvd2-2 532/572(93.01) 0
Fvb1-4 492/586(83.96) 4.36E-142

1) 相同性は,一致塩基数/比較塩基長(%)を示す.

考察

本研究では,萎黄病抵抗性品種「アスカウェイブ」を用いてF1集団を育成し,ランナー苗と培養苗を用いて,それぞれ異なる条件で萎黄病抵抗性検定を行った.両検定には正の相関が認められたが,対象品種である「とちおとめ」の発病度を比較すると,培養苗で著しく発病が激しかった.また,ランナー苗と培養苗両方を検定に供試できたF1系統を見ると,ランナー苗と培養苗で一部大きく発病度が異なる系統が見られ,特にランナー苗において培養苗よりも発病度が高くなる系統が多い傾向があったが,その一方で培養苗の発病度が高い系統も認められた.この結果の原因として,ランナー苗は株元かん注接種,培養苗は24時間根部浸漬接種という接種法の違いが挙げられる.かん注することで土壌を介して感染をさせるランナー苗の接種方法に比べて,培養苗では,菌液の接種濃度は低いものの,均一濃度の菌液を直接根全体に接種できることから,接種強度の均一化が図れると考えられる.また,異なる病害ではあるが,イチゴ炭疽病では通常栽培では抵抗性である品種が,無菌培養植物では罹病性となり,順化することで徐々に抵抗性が増していくことが明らかとなっている(Namai et al. 2013)ことから,接種苗の状態,生育ステージの違いがランナー苗と培養苗で大きく異なることも発病度に影響を与えていると考えられる.また,萎黄病の発病は環境条件によって,病徴の発現程度が異なると考えられている.小玉(1974)は地温の上昇により萎黄病の発病が助長されると報告している.培養苗では,気温,水温を一定に管理できるのに比べ,ランナー苗では,外気温や培土内水分量などの外部要因によって,培地温が変動し発病の進行程度に影響を及ぼすと考えられる.本来,罹病性である「とちおとめ」が今回のランナー苗の接種試験で発病度22と比較的低い発病度であったことも,上記の接種条件や,環境条件による誤差が生じたものと考えられる.さらに,ランナー苗においては,開放された温室内で供試苗の育苗から抵抗性検定までを行ったため,環境の変化に加えて自然に存在する病害虫のリスクも考えられる.今回の検定においても一部炭疽病の病徴が疑われた株を調査から除外しているが,無病徴の感染株が結果に影響を与えている可能性は否定できない.

両検定で得られた各系統の萎黄病発病度を用い,それぞれの検定ごとに萎黄病発病度を用いて度数分布グラフを作成すると,両検定共に共通する半数に近い株が「アスカウェイブ」と同程度の非常に強い抵抗性を示していることから,「アスカウェイブ」の萎黄病抵抗性には,生育ステージや栽培環境に左右されない効果の強い主働遺伝子が関与していると推察され,Mori et al.(2005)の接種試験と同様な結果を示した.しかし,それら抵抗性系統以外の系統は,発病度が連続的に分布していることから,主働遺伝子以外の抵抗性に関する効果の弱いQTLが複数存在しており,その集積効果によって様々な発病度を示す系統が存在している可能性が示唆された.そこで,萎黄病抵抗性の主働遺伝子の存在領域を明らかにするとともに,複数のQTLが検出されることを期待してQTL解析を行うこととし,連鎖地図を作成した.

QTL解析は,ランナー苗と培養苗それぞれで各系統の萎黄病発病度を用い,それぞれで解析を行った.その結果,ランナー苗では閾値を超えたQTLが1カ所検出されたのみであるのに対し,培養苗ではランナー苗とほぼ同様の位置に1カ所と,別の連鎖群に1カ所の計2カ所にQTLが検出され,異なる条件下で行われた2回の萎黄病抵抗性検定の結果において高い効果を示す抵抗性QTLがほぼ同じ場所から検出された.また,領域内に座乗するAFLPマーカーAA300を持つ系統のほとんどが「アスカウェイブ」と同程度の高い抵抗性を示した.一方,AA300を持たない系統は発病度が高い傾向があり,マーカーの有無と抵抗性の強弱が高い確率で一致した.この結果から,今回検出されたQTL領域はMori et al.(2005)が指摘した「アスカウェイブ」に存在する萎黄病に対する抵抗性の主働遺伝子に連鎖していると考えられた.さらに今回得られたSSRマーカー設計時の配列を元にBlast検索を行った結果,複数のデータベースにおいて,F. × ananassaの第2染色体上の配列と高い相同性を示したことから,検出されたQTL領域および,それに連鎖する萎黄病抵抗性遺伝子は,F. × ananassaの第2染色体上に座乗する可能性が高いと考えられた.これは,近年アメリカで発表されたgenome wide association mappingにより,いちご萎黄病抵抗性遺伝子の位置を同定した報告(Dominique et al. 2018)とも一致している.Dominique et al.(2018)は彼らの発見した抵抗性遺伝子のアレルは世界中の抵抗性品種が広く保持している可能性があると提言しているが,日本で育成された「アスカウェイブ」の主働遺伝子も同様のもので,祖を同じくしている可能性が高いと考えられる.

さらに,本研究では培養苗の結果からのみ,主働遺伝子に関連するQTLに加えて,別の場所からもQTLが検出された.ランナー苗と培養苗でQTL解析の結果が異なるのは,前述した通り,接種方法や苗の状態,環境条件により発現する発病度が異なることが原因と考えられる.ランナー苗の接種検定では,解放型の温室内で苗を管理しているため,気温等の環境条件によって病徴が異なることに加えて,萎黄病以外の病害の影響が考えられるのに対し,インキュベーター内で管理した培養苗を用いた検定では,接種後の温度や湿度を調整できることや,外的な病害虫の影響が無く,無菌培養を行った苗を接種に使用できることから,効果の弱いQTLの検出力が優れた可能性が示唆される.一方で,今回の培養苗の抵抗性検定も生育ステージや,接種条件によって,抵抗性の判定が異なる系統が存在する可能性も考えられる.今後,培養苗を用いた,より高精度な抵抗性検定手法を確立していくことで,今まで検出できなかった効果の弱いQTLの組合せ効果など複雑な遺伝様式を解明することが可能になると考えられる.また,本研究で作成した連鎖地図は「アスカウェイブ」では36連鎖群,「とちおとめ」では34連鎖群で,八倍体イチゴの基本染色体数28(2n = 8x = 56)まで収束するには至っていない.そのため,カバーできていないゲノム領域にQTLが存在する可能性も考えられることから,より高密度でゲノム全体を網羅した連鎖地図に改良し,QTL解析を行うことも重要と考えられる.近年,国内のイチゴ品種・系統を用いて高密度な連鎖地図が作成されるとともに(Isobe et al. 2013),ゲノムシーケンスが行われ(Hirakawa et al. 2014),イチゴゲノム情報の基盤が整いつつある.さらには,マイクロダイセクションで切り出した染色体をシーケンスする技術が確立され(Yanagi et al. 2017),ハプロタイプを識別するための技術開発も進んできていることから,今後,これらの情報を利用して,萎黄病抵抗性判別マーカーだけでなく,様々な重要形質を判別するDNAマーカーの開発が期待される.

本研究では,「アスカウェイブ」の後代集団を用いた連鎖解析によって,Mori et al.(2005)が存在を示唆した「アスカウェイブ」の持つイチゴ萎黄病に対する効果の高い萎黄病抵抗性主働遺伝子の存在を明らかにし,その抵抗性遺伝子に強く連鎖するDNAマーカーを得ることができた.本研究で連鎖解析に用いたAFLPマーカーやSSRマーカーは,検出方法が煩雑で比較的高コストであることから,大量のサンプルを短期間に解析する必要のある育種選抜に利用することは現実的ではない.しかし,抵抗性QTLの近傍にはAA300と同じ位置に複数のマーカーが座乗しており,それらのマーカー配列情報をもとに,より安価で簡易に検出できるマーカーの開発が期待でき育種選抜に利用可能になると考えられる.また,抵抗性検定の結果により,主働遺伝子とは別の抵抗性QTLが存在することに加え,培養苗を用いた精度の高い接種検定を用いることで,未知のQTLを検出できる可能性が示唆された.今後は,より高精度な検定法を確立し,ゲノム情報を有効に利用することによってさらに詳細な解析を進めていく必要があると考えられる.また近年,強い抵抗性を有する「アスカウェイブ」を枯死させる萎黄病菌株も報告されており(山崎ら 2017),「アスカウェイブ」の持つ遺伝子とは別の抵抗性遺伝資源の探索も必要であろう.今後,様々な品種において,より詳細な解析を進めていくことで,イチゴ萎黄病抵抗性の遺伝様式の解明,判別マーカーの開発が進むことを期待する.

電子付録

付表1.使用プライマー一覧.

付図1.とちおとめの連鎖地図.

付図2.アスカウェイブの連鎖地図.

引用文献
 
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